lost child

[広場]

 迷子の少年を見捨て、街を彷徨うこと半刻あまり。喧騒を辿って、ようやく広場まで戻ることが出来たが、広場は相変わらず人でごったがえしている。
 とはいえ、最大の見せ場である英雄と乙女の儀式とやらはすでに終了したらしく、広場に残っているのは、このまま夜のどんちゃん騒ぎまで時間を潰そう、という人間達のようだ。
 昼に訪れた屋台を探そうと広場を一巡りしてみたものの、もう店をたたんでしまったのか、それらしきものは見当たらなかった。
 さて、どうするか。このままでは埒が明かない。
「もし、そこな少年」
 背後から響いてきたしゃがれ声にぎょっとして振り返ると、そこには頭巾を目深に被った老婆が座っていた。
「そこに突っ立っておられると商売にならんのじゃ。用がないならどいとくれ」
 石畳の上に古びた絨毯を敷いてしゃがみこんでいる老婆の手には、大きな水晶玉。どうやら辻占い師の商売の邪魔をしてしまったらしい。
「わりいな、婆さん」
 ひょい、と横に避けてやると、老婆は頭巾の奥からうひゃひゃ、と息の漏れた笑い声を上げた。
「素直でよいのお。その心がけに免じて、ただで占ってやろうかの」
 占いは信じないことにしてるんだ、と断ろうとしたのに、老婆は勝手に水晶玉に向かってなにやら呟き出してしまった。
 まあ、ただだというなら別に構わないか。何を言われようが、取り合わなければ済む話だ。
 しばらく水晶玉を凝視していた老婆は、ふと顔を上げると、皺だらけの口元をにやりと緩めて語り出した。
「お前さん、なかなか面白い星の下に生まれているようじゃな。今はまだ混迷の闇の中をさ迷い歩いておるようじゃが、いずれの日にか『光』と巡り会うじゃろうて。その光がお前さんの道を示す暖かな灯火となるじゃろう」
 おごそかな口調で語られる予言を右から左に聞き流して、邪魔したなと歩き出す。
「あんたの占いが当たるかどうかは知らないけど、俺の道は俺が決める」
「占いはただの道標に過ぎんよ、少年。しかし、道に迷うた子供には道標も必要じゃ。さて、お前さんの向かうべき場所は占わんでよいのかな? これは有料じゃがのう」
 がめついが、なかなか侮れない婆さんだ。

「じゃあ、頼む」 「必要ないね」