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男は、異郷の人間だった

酒場の片隅で いつも静かに盃を傾けていた 寡黙な渡り戦士
滅多に口を開かなかったが ごくたまに酒を過ごすと
掠れた声で 故郷の歌を歌った

遥か昔 彼方の地に生まれし
神の御子を讃える歌

”東方の彼方に輝く星よ 我らを導きたまえ”

遠い国の 知らない言葉で
紡がれた 美しい調べ

いつしか 男が姿を見せなくなっても
木枯らしが吹く頃になると
夜の街に響き渡る 異郷の歌

今日もまた 酒場の片隅で
黒髪の神官が 囁くように歌い出せば
ビオラの調べが 滑らかに追いかけて
重なる音は いつしか極上の響きとなり
天高く 昇っていく

遠く、異郷の鬼となり
荒野の果てに眠る かの人に届けよと



 2006年のクリスマス限定TOPとして、12/25のみINDEXページに置いてあったものです。
 この世界にはクリスマスはないので、あくまでパラレルものですが(^^ゞ
 パラレルということで、他の世界から(無断で)召喚したりしてますが、ど、どうぞ平にお許しを……(平伏)

 余談ですが、”故郷の歌”は「まきびとひつじを(The First Nowell)」をイメージしております。Nowellの綴りは英国風なのだとか。
 賑やかなクリスマスソングが多い中、染み入るような旋律が美しいこの歌が大好きです。
 ……最初は「荒野の果てに(Les anges dans nos campagnes)」にするつもりだったんですが、酒場の片隅でいかつい男がぼそぼそ歌う歌ではない気がして(^^ゞ 最後まで迷いながらも土壇場で変更(^^ゞ

 『異郷の鬼』という言い回しは、今回この小話を書くにあたって色々調べていて初めて知ったもの。ファーン世界では「鬼」というと、れっきとしたモンスターになってしまうんですが(>_<) 今回はパラレルと言うことで、こういう表現もあえて使ってみることに。
2006.12.30

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