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未来
 貧民街で生きていた頃、俺には『今日』しかなかった。
 過ぎ去った日々を振り返る暇も、不確かな明日を考える余裕もなくて。
 毎日が、辛く苦しい今日の繰り返し。どんなに足掻いても何も変わらず、いつもひもじくて、どうやって今日一日を生き抜こうか、それしか頭になかった。

 ある日、抗争に巻き込まれ、瀕死の重傷を負い。
 義父に引き取られ、神殿での生活を始めるようになって、俺は初めて『未来』という言葉を知った。

「明日を夢見ること。それこそが『未来』だ」

 例えば、明日の昼飯は何だろう、とか。
 今日は出来なかった問題も、明日こそは読み解けるようになっているかもしれない、とか。

 そんな希望を抱けること。
 それこそが『未来』なのだと。
Twitter300字ss」 第九十二回「来る」
 Twitter300字ssが今回で最後ということで、絶対参加したいなと思って、何とか捻り出しました。
 貧民街でその日暮らしをしていた頃のウル少年は、『明日を夢見る』余裕などなく、その概念を理解したのは養父ダリスに引き取られて、衣食住が保証されてからだろうな、と思ったら、こんなお話に。

 初めてTwitter300字ssに参加したのは2016年2月の「第十八回・光」。毎回参加は出来ませんでしたが、飛び飛びで七年ほど参加させて頂いたことになりますね。
 何を書いても長くなる癖がある私にとって、この「300字SS」というのは「いかに文章量を絞って、かつ、きちんと伝わる内容にするか」という、とても難しくて、取り組み甲斐のある企画でした。
 素晴らしい企画を運営してくださったいぐあなさん、本当にありがとうございました!!
2022.11.05


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