今日もまた一つ、墓が増えた。
救貧院で看取られた、身寄りのない爺さんの墓だ。
誰も本名を知らなかったから、簡素な木の墓標には通称の『針鼠』とだけ彫った。
弔問客のいない葬儀はあっという間に終わってしまって、やる気のない神官どもは「あとは頼む」とだけ言い残し、さっさと引き上げていく。
弔いの鐘が鳴り響く中、吹き抜ける風に雨の気配を感じて天を仰げば、はたはたと雨粒が落ちてきた。
掘り起こした土を撫で、墓標を濡らしながら、大地を静かに染めていく雨。
――ああ、まるで空が泣いているようだ。
どこの誰とも知らない人間のために、空が泣いている。
いつか、俺のためにも泣いてくれるだろうか。
誰に惜しまれずとも、この空だけは。