「こらー! 玄関を泥まみれにしやがったのはどこのどいつだー!」
「きゃー☆」
村外れの小屋からは今日も賑やかな怒鳴り声が響いてくる。
「あーあ、またやってる」
ひょんなことから幼い少女との共同生活をする羽目になった神官ラウル。越してきた当初は猫を被っていた彼も、今では毎日額に青筋を浮かべて怒鳴りまくる姿が定着してしまった。
故に、神殿で聖句を唱える彼の姿を目撃した村人は、揃って目を丸くすることとなる。
朗々たる声が紡ぐのは、複雑な音韻と音階を織り込んだ調べ。
伴奏もなく、聴衆もない。それでも彼は真摯に祈り続ける。
そして、こちらに気づいた彼が照れくさそうに笑う顔が見たくて、今日も村人達はこっそり神殿を覗くのだ。