お父様が丹精込めて育てた、星のような花。黄色い花弁が揺れるたび、お父様が目を細めていることを、私は知っている。
ふわふわした花弁が、今はここにいない誰かさんを思い出させるから。
伸ばすと癖が出るからと、いつも短く刈り込んでいた淡い金髪。私はこんなに地味な焦茶色なのにずるい、取り替えてくれと言っては困らせた。
自由奔放で、それなのに頑固一徹で。
自分には商家の切り盛りは出来ないからと言って、ふらりと家を出たまま、もう何年になるかしら。
後のことを任されてしまった私は勿論怒ったけど、お父様は笑っていた。
あいつらしい。そうとだけ言って、今日のように花の世話に勤しんでいたお父様。
なんで怒らないの、と憤る私に、お父様はまるで子供にするように、私の頭をよしよしと撫でて、歌うようにこう言ったのよ。
どの花にも、同じく手間をかけ、等しく愛情を注ぐ
どんな風に咲くかは、その花次第
愛しき花よ、思いのままに咲き誇れ――!
あの時は、何を言っているのか分からなかったけれど。
大人になった今なら、その意味が分かる。
同じ家に生まれて、育って。
それでも、外に飛び出す種もあれば、家に根付く種もある。
私にはこの生き方が合っているし、誰に譲る気もないように。
あなたには、あなたの守るべき場所があるんでしょうね。
それでもお兄様。お父様はいつまでも若くないし、私も気付いたら三十路突入よ?
たまには顔を出しに戻ってらしたらどうなのかしら?
かわいい妹のドロテアより
ダリスお兄様へ
追伸:いい加減に身を固める決心はついたのかしら? この身は神に捧げているからとか、初恋の人が忘れられなくて、なんて言い訳はもう通用しなくてよ?