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素朴な質問
「ねえ神官さん。ずっと黒づくめで暑くない?」
 少年の素朴な質問に、赴任して三ヶ月の若き神官は、困ったように頬を掻いた。
「暑いですよ。でも、これが神官の正装ですから」
「でもさ、その服ってお仕事の服でしょ? お仕事してない時も着てるよね」
 少年の指摘は、実は正しい。しかし、そうも言っていられない理由がラウルにはあった。
「急な赴任だったから、あまり荷物を持ってこられなくて、普段着がほとんどないんですよ」
 ふうん、と気のない返事をして、少年は唐突に話題を変えた。
「ぼくね、初めて神官さんを見た時、神様かと思ったんだ。だって、神殿に飾ってある絵とそっくりだったんだもん」
 闇と死の神ユークは黒髪を肩で切り揃えた少年の姿で描かれる。黒衣を纏い、大鎌を持つ姿は石像や絵画などでもお馴染みだ。
「それは何とも光栄なことですね」
『こんなのと一緒にするな』
 不意に聞こえてきた不機嫌そうな『声』に、ひいと青ざめるラウル。
「? どうしたの?」
「い、いえ。それよりロイ、そろそろお昼ですよ」
 その言葉に慌てて立ち上がった少年は、その勢いのまま走り出しかけて、不意に足を止めた。
「服がないと困るでしょ。何とかしてあげるね」
「え? いや、あの」
「楽しみにしててー!」
 元気よく手を振り、駆け出していく少年。その小さな背中を見送りながら、呆然と呟く。
「……何とかって、何をする気だ?」
 首を傾げたところで、再び脳裏に響き渡る『声』。
『好意を無下にするなよ』
 今度は明らかにからかい交じりの声に、きっと虚空を睨みつける。
「ユーク神! どうでもいいことばっか呟いてないで、ありがたいお告げでもしたらどうなんだ!」
 神に対してこの暴言もどうかと思うが、なにしろこの神様と来たら、信者をからかって楽しんでいる節があるから困りものだ。そして案の定、怒声に対する返事などなく、行き場を失った怒りをどすどすと地面にぶつけながら、ラウルは村外れの小屋へと歩き出した。

 後日。ロイから相談を受けた村の女性陣が、それぞれに書き溜めたトンデモ衣装の絵を持ってラウルの小屋に押しかけ、大騒ぎになったと、エスト村史は伝えている。
おしまい
 第4回 Text-Revolutionsの「キャラクターカタログ企画」に参加させていただいたSSです!
 キャラ紹介(イラストもOK)で1P、SSで1Pの見開きでキャラクターを紹介する企画だったので、誰を出そうかなと考えて、最後までリファとラウルで迷ったのですが(笑) リファのSSが思いつかなかったのでラウルにしました(酷い)。
 「文字数は600~950字程度、1ページ(22文字×25行×2段)に収まるように」という規定があったので、その中で収まるように大分文章を削った記憶が(^_^;)
 珍しくユーク神がいっぱい喋ってますが、内容はろくでもないですね。

 そして、この後日談がSS「Glance」になります。
2016.10.10


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