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《これまでのあらすじ》

 光の竜ルフィーリによって、強制的に『魔法少女』にされた『巫女』。
 長き時に渡り、歴史の闇に潜んでいた彼女は、戸惑いながらも『魔法少女』として生きることを決意する。
 一方、なぜか自らも『魔法少女』となり、ことあるごとに巫女の活動を妨害するルフィーリ。
 あまつさえ『魔法少女対決』を挑んできた彼女の真意とは――?
 今、新たなる光と闇の伝説がここに始まる――。



 ドォォォォン……!

 最終奥義『ファイナルエクスプロージョンR』の発動により、見るも無残に砕け散った遺跡の真ん中で、少女達は対峙する。
『巫女! 大丈夫かにゃん?』
 土煙にむせながら辺りを見回す黄緑色の猫――魔法少女のお供として新たな姿を得たサイハ――は、すっかり風通しの良くなった広場で立ち尽くすご主人様の姿を見つけると、短い手足を懸命に動かして駆け寄った。
『巫女、無事で何よりにゃん!』
「……にゃんにゃんうるさいのう」
 呻くように呟きながら、口の端から流れる血を拳で拭う少女。月光を紡いだような銀髪は土埃に塗れ、これまでどんな攻撃を受けても決して破けることのなかった不思議な装束は、どういうわけか胸と腰回りを避けてズタボロに破けている。
『みみみ、巫女! 動いちゃダメにゃん、放送禁止になるにゃん』
 そのあられもない姿に赤面し、目を隠すサイハ。
「そんなことを言うておる場合ではないぞ。気を抜くな、サイハ!」
 魔法の杖を両手で構え、土煙の彼方に佇む相手を睨みつける。自爆覚悟の最終奥義も、どうやら彼女には通用しなかったようだ。
「らう~。おようふく、よごれちゃったあ」
 けほけほと咳き込みながらそんなことを呟いている金髪の少女は、傷一つ負っていない。それどころか、奥義を間近で喰らったはずなのに、その装束は若干汚れているだけで、巫女のように破けてすらいないのだ。
『そんなこと言ってる場合かブゥ! つーか何でアイツが猫なのに俺はブタなんだブゥ!』
 少女の足元でブヒブヒ喚いているのは、何の因果かこちらも魔法少女のお供として新たな生を得たラウル。黒豚なのが唯一の面影か。
『にゃーはっは、何度見ても愉快な姿だにゃん!』
 状況を忘れて笑い転げるサイハを無表情に蹴飛ばして、巫女はぎり、と奥歯をかみしめた。
「光の竜よ、なぜお前は――堕ちた!」
 深き絶望の淵にいた巫女を無理やり魔法少女にした光の竜ルフィーリ。本来、民草を慈しみ、見守る存在であるはずの彼女は、幾度となく巫女の前に立ちはだかってきた。
 時には村の子供を人質にとり、時には王城の姫をかどわかし――時には、世界滅亡の預言まで持ち出して。
「何故、この私が――お前と戦い、世界を守らねばならんのだ!? 逆じゃろ、逆!」
 最後の本音をすっぱりと無視して、無邪気に笑うルフィーリ。
「まほうしょうじょには、てきが、ひつよう!」
『お前、そんな理由で――アイタタタタタ分かった! 分かったからやめろブゥ!』
 逆らうと締まる魔法がかけられた首輪にぎゅうぎゅうと締められて、のた打ち回るラウル。
「っていうのは、じょうだん☆」
 きゃぴっと片眼を瞑って可愛いポーズを取ってみせたルフィーリは、巫女と色違いの杖をぶんぶんと弄びながら不敵に微笑む。
「たたかうことで、ぱわーあっぷする! ほんとうのてきを、たおすために!」
「本当の敵、じゃと……?」
 予想外の言葉に眉をひそめる巫女。
「このよにわざわいをよぶ、しょあくのこんげんをたおすことが、まほうしょうじょの、しんのもくてき☆」
 さあ杖を、と自らの杖を天に掲げるルフィーリ。勢いでそれに倣ってしまった巫女は、突如天から差し込んだ暖かな光が二人を包み、傷を癒していくのを感じた。怪我だけではない。手ひどく裂けてしまった魔法少女の装束までが、見る見るうちに形を変えていく。
「あらたなるすてーじへ、あがったの☆」
 前にも増して装飾と露出が増えた豪奢な装束。掲げた杖も形を変え、より長く、より豪華になっている。どこか鍵のような形になった杖を満足そうに見つめて、ルフィーリは力強く宣言した。
「さあ、らすぼすを、たおしにいこう!」
「ラスボス?」
 小鳥のように首を傾げる巫女を尻目に、竜の少女は手にした杖を勢いよく地面にぶっ刺した。そこから眩い光が迸り、大地に不思議な文様を描いていく。
「うおおお、眩しいブゥ!」
「目が、目があああああにゃん!」
 目を押さえて転げ回る二匹を無視し、ルフィーリはほらほら、と手招きする。
「みこさまも、はやくぅ」
 もう何が何だか分からない。促されるままに、ルフィーリが指し示す場所――彼女の杖が突き刺さっているすぐ横へと杖を突き立てる。すると――。
「なんだ、これは……!」
 半ばで止まっていた光の文様が急速に広がり、扉のような形を大地に描き出す。そして、途切れていた線が繋がった瞬間――光の扉が出現した。
「ま、眩しいっ……!」
 暗闇に慣れた巫女の目に、その光は眩しすぎた。輝きの奔流に、視界が――世界が、光に染まっていく。
「せかいのとびらが、ひらくよ♪」
 楽しげな声が遠くから響いてくる。
「世界の、扉――!? 一体、何が……」


「――げ。何でこっち来てんの」


 唐突に響いてきた呑気な声。
 恐る恐る目を開けば、何もない空間に出現した大きな扉のその向こうには、謎の空間が広がっていた。
 床から天井まで本で埋め尽くされた薄暗い部屋。唯一置かれている作業机に行儀悪く足を乗せながらパソコンと向き合っているのは――。
「らすぼす! かくご!」
 びしぃ、と指を突き付け、ポーズを決めるルフィーリ。
「この者が、ラスボスなのか?」
 とても信じられない。こんな、どこにでもいそうな貧相な人間が、ルフィーリが言うところの『諸悪の根源』だというのか。
「誰がラスボスだって?」
 不服そうに口を尖らせてみせる人間の手元――パソコンのディスプレイには、何やら長い文章が表示されている。どうやら、物語のクライマックスシーンらしい。
「……『力ある言葉が生み出したのは、研ぎ澄まされた氷の刃。無数の切っ先がラウルへと襲い掛かる』――!? おいなんだこれ! ふざけんなよ!! へっぽこ作者!」
「らう、いじめる、わるいやつ! せいばい!」
 ちゃきーんと杖を振りかざすルフィーリ。作業机の上でぼよんぼよん跳ねて抗議するラウル。その振動で机の上から崩れた本の合間から、紙切れのようなものがひらりと落ちた。
 反射的に拾い上げ、何気なく目をやって――次の瞬間、焔にも似たどす黒いオーラが巫女の全身から立ち昇る。
「なるほど、諸悪の根源か……。言い得て妙じゃのう」
 その紙切れは手書きの設定資料だった。黒装束の少女の全身像の横には身体的特徴の他に、少女の生い立ちが箇条書きで書かれている。


・黒幕← 不死の呪法をかけられている
・幼い頃に才能を見出されてかどわかされた
・この世のすべてを呪っている


「お前さえいなければ、私が何百年もの間、絶望と共に生き続けることもなかったと、そういうことじゃな?」
「ちょ、ちょい待ち! 暴力反対!」
「もんどうむよう! かくごー!」
「お前を倒して、全てを終わらせてやる!」
 ルフィーリと巫女。二人の魔法少女の思いが今、一つとなる――!!


 次回、『魔法少女☆巫女ちゃんR』最終話「そして伝説へ……?」。請うご期待!

続かないよ!
 こちらは「でんたま! ~伝説の卵神官シリーズ公式アンソロジー~」に寄せたSSです。
 でんたまアンソロでは頂いた作品に対して、同じ登場人物等を入れたSSを書く、というやり方を取っておりまして、こちらは「魔法少女 巫女ちゃん☆」(漫画)を描いてくださった春藤輝凜さんへのお返しとして書いたSSです。

 タイトルからお察しの通り、「魔法少女 巫女ちゃん☆」は「未来の卵」のIF展開……というか魔法少女もの! ラウルがコマの隅でさり気にどんどんひどいことになってるのが最高です!(酷い) こんな未来が待ってたら巫女も救われ……たのかこれ?

 そしてお返しのSS「魔法少女☆巫女ちゃんR」は、テレビシリーズなら続くでしょ! と言わんばかりに徹底的に魔法少女ものをリスペクト(?)しました!
 お約束は全部入れたはず! そして輪をかけて扱いが酷くなるラウル。そしてまさかのラスボス=作者(笑) 一度やってみたかったんだww

 輝凜さん、本当にありがとうございました~!
2024.12.17

(2016.10発行「でんたま! ~伝説の卵神官シリーズ公式アンソロジー~」初出)


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