朝日が昇るその瞬間に、『彼女』の意識は覚醒する。
新緑を閉じ込めたような瞳に映るのは、真っ暗な寝室。分厚い鎧戸に阻まれて、朝の光は一筋たりとも届かない。
寝台からひょいと飛び降りて窓辺へと走る。小さな手を懸命に伸ばして鎧戸を開けば、まだ薄暗い空が見えた。
「きょうも、はれ!」
青から白、そして黄金色に染まりゆく空。窓から身を乗り出し、嬉しそうに微笑む少女の頭上を小鳥達が舞う。
「おはよー! おはよー!」
小鳥の囀りに手を振り、吹き渡る風に微笑みかける。木々のざわめきに耳を澄まし、徐々に上がっていく気温を肌で感じる。
寝静まっていた世界が一斉に目覚めていくこの時間は、彼女にとっての「とっておき」だ。
朝に弱い同居人が目を覚ます前に、こうして『朝』と『光』を取り込んで、一日の活力を蓄える。
そうして、朝日がすっかり顔を出し、早起きの村人達が活動を始める頃に、少女は満足顔で窓を閉め、寝台へとよじ登る。
そして昏々と眠りこける同居人の布団に潜り込むと、いそいそと二度寝を始めるのだ。
「起きろ、チビ――! なんでまた俺の布団で寝てるんだよ!」
「きゃー♪」
わずかに開いた窓から差し込む光に照らされて、賑やかに悲鳴を上げる少女の顔は、この上なく幸せそうに輝いている。