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黎明
 朝日が昇るその瞬間に、『彼女』の意識は覚醒する。
 新緑を閉じ込めたような瞳に映るのは、真っ暗な寝室。分厚い鎧戸に阻まれて、朝の光は一筋たりとも届かない。
 寝台からひょいと飛び降りて窓辺へと走る。小さな手を懸命に伸ばして鎧戸を開けば、まだ薄暗い空が見えた。
「きょうも、はれ!」
 青から白、そして黄金色に染まりゆく空。窓から身を乗り出し、嬉しそうに微笑む少女の頭上を小鳥達が舞う。
「おはよー! おはよー!」
 小鳥の囀りに手を振り、吹き渡る風に微笑みかける。木々のざわめきに耳を澄まし、徐々に上がっていく気温を肌で感じる。
 寝静まっていた世界が一斉に目覚めていくこの時間は、彼女にとっての「とっておき」だ。
 朝に弱い同居人が目を覚ます前に、こうして『朝』と『光』を取り込んで、一日の活力を蓄える。
 そうして、朝日がすっかり顔を出し、早起きの村人達が活動を始める頃に、少女は満足顔で窓を閉め、寝台へとよじ登る。
 そして昏々と眠りこける同居人の布団に潜り込むと、いそいそと二度寝を始めるのだ。

「起きろ、チビ――! なんでまた俺の布団で寝てるんだよ!」
「きゃー♪」
 わずかに開いた窓から差し込む光に照らされて、賑やかに悲鳴を上げる少女の顔は、この上なく幸せそうに輝いている。

黎明・おしまい
 こちらは「でんたま! ~伝説の卵神官シリーズ公式アンソロジー~」に寄せたSSです。
 でんたまアンソロでは頂いた作品に対して、同じ登場人物等を入れたSSを書く、というやり方を取っておりまして、こちらは「頼られ者」(漫画)を描いてくださった都岬美矢さんへのお返しとして書いたSSです。

 「頼られ者」はカイトが拾った謎の石を巡って、とんでもな騒動が巻き起こるお話。大きいルフィーリを描いていただくのは、実はこれが初めてかも!! おっきくなると光の女神ガイリア似の美人さんなんですが、中身はそのままだからなあ(笑) 

 そしてお返しのSS「黎明」は、朝日と共に起きるルフィーリが、宵っ張りで朝寝坊なラウルが起きるまで、一体何をしているのかというお話(笑)
 ちなみに彼女は太陽の動きと体内時計が連動してるので、たとえ室内に光が入ってこなくてもばっちり目を覚まします。強力目覚まし。

 美矢さん、本当にありがとうございました~!
2024.12.16

(2016.10発行「でんたま! ~伝説の卵神官シリーズ公式アンソロジー~」初出)


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