[TOP] [HOME]

幻影燈
 怪しげな露天商から、『幻影燈』なるものを手に入れた。
 なんでも、忘れてしまった景色を映し出してくれる、特別な一品だという。
 手順書に従い、庭に天幕を張って夜を待つ。
 日付が変わるその瞬間、内部のランプに火を点せば、青い光が天幕を埋め尽くした。

 青の奔流 むせ返る潮の匂い
 銀色の群れ ヒレを翻して泳ぐ魚たち
 揺れる水面は遙か遠く 射し込む光が水底を照らす

 ああ――これはきっと、遺伝子に刻まれた海の記憶
 誰もが忘れてしまった、太古の景色――

「……ただの幻灯機を魔法の品だなんて、詐欺もいいところだな」
「なぁに、元を辿ればみんな魚だ。嘘は言ってないさ。誰もが抱く原風景。忘れてしまった景色。どうだい、浪漫に溢れてるだろう?」
Twitter300字ss」 第七十六回「影」


 幻灯機はランプとレンズを使って硝子に描かれた絵を映し出す、今で言うスライド映写機みたいなものですが、「そこにない景色」を映し出すというのは、まさに魔法のようですよね。
 今やVRやAR技術が進歩して、現実と区別のつかないレベルで幻想を映し出すことすら可能な時代になりましたが、それが魔法であれ科学技術であれ、見た物に意味を見出すのは人の心なのだろうなあ、とも。
2021.06.06



[TOP] [HOME]