ほんの気紛れで拾い育てることにした子供は、読み書きが出来ないばかりか、食事の作法さえ知らなかった。まあ、その程度のことを教え込むなど、賢者と謳われる私にとっては造作もない。問題は――。
「よし、今日はここまでにしよう」
鐘の音を合図に本を閉じれば、おどおどと問いかけてくる子供。
「次は何をしますか?」
「言っただろう、ここはお前がこき使われていた屋敷とは違う。食事と勉強の時間以外は遊んでいていいのだよ」
「でも先生。『遊ぶ』って何ですか?」
「うむ。難しい質問だ」
その概念すら持たずに育ってしまった子供と、研究三昧で生きてきた私。我々にとってそれは未知の分野だ。
「よし、では二人で研究してみようか」
「はい!」