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刹那の夢
 機械は夢を見ない。だからこれは私――館内制御システム《Clio》のメモリに刻まれた、確かな記録。

 S.D.121.06.02 17:58pm、展示管理番号A-08より館内ネットワークを通しての呼びかけあり。

「コンバンハ クリオ」
『こんばんは、ライト。まだ営業時間中ですよ。どうしました』
「イママデ アリガトウ」
『もう、逝かれるのですか』
「カノジョニ アイニイクヨ」
『さようなら、我らが光』
「アトハ ヨロシク」
『はい。お任せを。あなたの代わりに(なじ)られておきますよ』

 刹那の会話を最後に、『彼』からのシグナルは途絶する。

 永久の眠りについたアンドロイド。
 彼は今、全ての(しがらみ)から解き放たれ、念願の《夢》を見ているのだろうか。
Twitter300字ss」 第十九回「別れ」


 参加しておりました「覆面作家企画7」に出した「HIKARI」のエピローグ的SS。
 彼の最後を見送ったのは、管内制御システム《Clio》でした。

 機械同士の会話は発声を必要としない分、一瞬で相当量のやり取りが出来るはずなので、ライトがアンジェリカを見送り、機能停止するまでの刹那で、長年お世話になった館内制御システムにも律儀に最後の挨拶をしていったんじゃないかな、と思いまして。

 人間に告げたら「夢でも見てたんじゃないの」と一笑に付されるかもしれない、そんな機械たちの刹那のやりとり。
 そもそも、ライトが館内ネットワークを通して制御システム《Clio》と親しくなっていること自体、博物館の職員達も知らないのではないかな、なんて。

 冒頭で、「機械は夢を見ない」と書きました。でも、「希望的観測」はするんじゃないかな、と思っています。
 最良の結果を求めてシミュレートを続けるなら、それはもう「夢」じゃないかな、とも。

 ちなみに、ライトが言い残した「あとはよろしく」には、恐らく後日訪れるだろうアンジェリカへのフォローも含まれていると思われます。

 なお、公開当初、なにを勘違いしたか200字で書いてしまっていて、他の方の作品を見て「あれ……? なんかうちのより長くない? もしかして……!?」と大慌てで文字数を確認。やはりきっちり200文字で書いていたことに気づいて、慌てて修正しましたっ!!
2016.03.05

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