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○人物評・岸千夜
 岸千夜(きしかずや)という男は、得がたき級友だ。親友でも悪友でもなく、どこまでも級友なのだ。
 小学校から一緒だけど、かといってよく遊ぶような仲でもないし、趣味だってかすりもしない。
 接点があるとすれば、ただ一つ。同じクラスになった場合、高確率で新学期の席が前後になる。
 オレは菊池であいつは岸。新学期は名前順に座席が割り振られるから、オレはしょっちゅう椅子を傾かせて、後ろの席に話しかける。
「なーなー岸、宿題やってきた?」
「当たり前だろう。そしてお前はまた忘れたんだな」
「ご名答~! 写させて~! いっしょーのお願い!」
「お前の一生は何度あるんだ。大体、写したら宿題の意味がないだろう。分からないところがあるなら聞け」
「そんなんじゃ間に合わねえよ~」
「自業自得だ。ほら、さっさとプリントを出せ」
 頭脳明晰、文武両道。やたら堅苦しく、素っ気ない言動からついた渾名は『インテリめがね』。
 それこそが、オレの級友――岸千夜という男だ。


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