記録
復活歴122年 五の月十二日 晴れ

 やっと話せるまで回復したと思ったら、どうして助けたとか、ほっといてくれだとか、ユークの坊さんはお経を唱えてりゃいいんだとか、憎まれ口ばかり叩く。元気な証拠だ。
 腹が減ったとごねるので少しだけ重湯を与えたら、ようやく笑顔を覗かせた。笑うと、年相応の顔になる。
 家族は、と尋ねたが、身寄りはないという。物心つかない頃に貧民街に置き去りにされたらしい。
 孤児院は、と言いかけたら断固拒否されたので、それじゃあ自分の子供にならないかと言ったら目を丸くしていた。
 それでも頷いてくれたので、善は急げと手続きを取ってきた。

 実は、あの時。言った自分も、びっくりしていた。
 思いもよらず、自然と口がその言葉を紡いでいたのだ。
 看病しているうちに情が移ったのかといわれれば、否定は出来ない。
 しかしなんというか、違うのだ。
 閃き――そう、閃きだ。
 この子がそばにいたら、きっと飽きない。
 こういう閃き――直感――は、大体当たるものだ。
 だから私はこの決断を、微塵も後悔していない。


 ラウル。黒髪の我がいとし子よ。
 おまえに、ユークの加護があらんことを。

 とりあえず、人のことをくそじじい呼ばわりするのはやめろ。