旅の記録帳 二十四冊目
復活歴138年 七の月二十日 霧

 今日は朝から霧が漂っており、冷ややかな風が時折、思い出したように帆をくすぐっていました。
 昨日まであんなに荒れていた海が、今日はまるで湖に浮かんでいるかのように凪いで、ますます不気味な雰囲気です。
 こんな状態でよく、進路を見失わないものだと感心しましたが、なんと『青い一角』号には魔法の方位磁針がついているのだとか。
 それでも、こんな濃い霧の中でも航行できるのは、もちろんこの海を知り尽くした船長さんをはじめとする熟練の船員さん達が頑張ってくださるからです。いくら魔法の方位磁針とはいえ、暗礁や他の船の位置までは教えてくれないんですからね。
 北大陸に近づくにつれて気温もどんどん下がっており、七の月だというのに上着を羽織らないと甲板には出られません。薄着のアイシャは船長さんの好意で、船員さんの服を貸していただいてました。男物ですがなかなか似合っています。本人も気に入ったようで、船員さんに混じって甲板掃除をしたりしています。
 海が不気味に凪いだおかげで、エスタスの調子も大分良くなりました。まだ食欲はないようですが、水を飲んでも戻す、ということはなくなりました。ほっと一安心です。
 なにしろ、今回の定期船には我々と、商用で北大陸に向かうという商人さん、それに避暑がてら観光に向かうというご婦人のご一行しか乗り合わせていません。何かあった時、主戦力が船酔いで戦えません、ではお話になりませんからね。

 今日は船長さんが自室に招いてくださって、船酔いにいいという薄荷のお茶をご馳走になりながら、これまでの航海のお話を色々聞かせてくださいました。
 ドミニク船長が見習い船員として定期船に乗ってから三十年。しかし、これまで一度も巨大生物だの海の魔物だのには遭遇したことがない、ということでした。やはり三百年前に一掃されてしまったんでしょうか。非常に、非常に残念です。

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