旅の記録帳 二十五冊目
復活歴138年 七の月二十八日 晴れ

 予定よりも五日ほど早い今日、『青い一角』号は無事、北大陸はローラ国の港町リトエルに到着しました。
 港にはたくさんの船が停泊していました。そのほとんどは貿易船や定期船ですが、ところどころに見える小型で優美な形の船は、避暑に来た貴族を乗せた船なんだと、船員さんが教えてくれました。
 桟橋に降り立ち、久々の揺れない地面の心地よさを味わっていると、荷降ろし作業を監督していた船長が声をかけてくれました。
「色々あったが、無事北大陸に君達を運ぶことが出来て嬉しいよ。しばらくはこちらにいるのかい?」
「ええ、当分の間はここで、遺跡調査をするつもりなんです」
 ルーン遺跡の話をすると、船長は目を細めてうんうん、と頷きました。
「あそこはもう枯れた遺跡だなんて言う輩もいるが、実際には遺跡の奥深くまで到達した者はいないそうだ。きっと君達なら何か、とびきりの宝物を見つけられるに違いない。幸運を祈るよ」
 そう言ってかっこいい敬礼を投げてくれた船長に手を振って、港を後にした僕達。
 まずはリトエルの冒険者ギルドで情報収集、する予定だったんですが。
「……わるい。だめだ」
 ようやっと船酔いが収まったはずのエスタスが、今度は”揺れない地面”に酔ったらしく、息も絶え絶えの状態だったので、まず近くの宿屋で休むことにしました。
 寝台に沈んでいるエスタスの看病をアイシャに頼んで、僕はさっそく町で情報収集を開始しました。最初に行ったのは当然のことながらルース分神殿です。ご挨拶をして、しばらくこちらへ逗留する旨を伝えると、北大陸の気候と文化について簡単に説明してくださいました。予備知識は多少あったのですが、こちらでは十月に初雪が降ることも珍しくないんだとか。今は夏真っ盛りですが、中央や東と比べると大分過ごしやすいし、夜になるとぐっと気温が落ちるそうで、他大陸からの渡航者はまず、この寒暖の差で体調を崩すそうです。僕達も十分気をつけないといけませんね。
 ルーン遺跡を調べに行く話をすると、それなら遺跡に一番近い村、エストに逗留するといいと勧められました。そこはもともと、遺跡探索の冒険者達が築き上げた村なんだそうです。遺跡探索が下火になった現在は寂れた農村になっているそうですが、宿屋はあるので長期逗留も可能とのこと。最悪の場合、遺跡に簡易天幕を張って寝泊りする覚悟をしていたので、ほっと胸を撫で下ろしました。
 エスト村までは馬車を乗り継いで十ニ日ほど。ルーン遺跡と対面できる日も間近に迫ってきました。ああ、楽しみです!

<< >>