記録
復活歴138年 四の月ニ十ニ日 曇り

 ハル君が塔にやってきてから十日。塔の暮らしにも随分馴染んできたようです。
 ここしばらくは若い子が入ってこなかったので、塔の皆さんもからかうのが楽しくて仕方がないみたい。ハル君も適当に受け流すのが上手なので、なかなかうまくいっているようです。
 そんなハル君が、夜になると時折姿を消すので、もしかして夢遊病かしら? なんて心配になって、アルと二人で後をつけてみたんですが、心配は無用でした。
 彼は、塔の屋上へ登って、月を見上げていました。月明かりに照らされた横顔が、どこか寂しげでしたが、
「はー……腹減ったなー。お月さんがビスケットに見えるぜー。あれ食えたら腹いっぱいになるだろうなー」
 という呟きが聞こえてきた瞬間、アルが飛び出していって体当たりをかましていました。
 成長期のハル君には、食事の量が足りなかったみたいですね。明日から料理当番に、彼の分だけ多く盛ってあげるよう進言しておきましょう。夜な夜なおなかが空いて徘徊されたら困りますし。
 もう竈の火は落としてしまっているので、今日のところはアル秘蔵のお菓子と、研究室の実験器具を使って入れたお茶で我慢してもらいました。なんだか、相伴していたアルの方がいっぱい食べていた気がしますけど……。

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