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 中央大陸ガイリアは、その全土をラルス帝国によって支配されている。そしてその北部、ヒース地方の最北端はヴェルニー侯爵領となっており、北大陸アイシャスの最西端にある自由都市メイルへ向かう定期船はここから出港している。陸路の旅を一月ばかり続け、三人はヴェルニー侯爵領の港町、センビルに到着した。
「定期船は昨日出たばかりでよ、次は一週間後だ」
 港にある定期船乗り場でそういわれて、三人は一週間ここに逗留することに決めた。急ぐんなら自分で船を借りるんだな、と乗り場の人間に言われたのだが、船を借りるほどの大金の持ち合わせはない。
 港からすぐのところにある宿に部屋を取って、三人は町に出た。
 旅に入用な物を色々と買い足して、ついでにライカに嫌がられつつ服や装飾品の店を何軒か覗いて、遅い昼食をとっていると、ライカが言いにくそうに切り出した。
「悪いんだけどさ、オレちょっと用があるから、適当に宿に帰っててくれよ。ルナの面倒は見るから」
「あら、ルナなら別にいいわよ?」
「いや、たまにはいいだろ。な、ルナ?」
 ルナが笑う。ルナの機嫌もいいことだし、たまにはいいかと思ってサミュエルは承諾した。
「じゃ」
 ルナを抱きかかえてライカは店を出て行った。だが、サミュエルの鋭い耳は、ライカが出がけに店の主人に聞いていた言葉を聞き逃さなかった。
 ――ルファス神殿はどこにある? ――
 ライカは確かにそう尋ね、主人に場所を教えられてスタスタと出て行った。
 ルファス神は時間を司る神様で、たいていの町には神殿があある。何故ならば時刻を知らせる、という大切な役目を負っているからだ。それが港町なら尚更だ。
 だが、なぜライカがルファス神殿に用があるのか。普通、ルファス神殿に用がある者と言えば、時計が壊れたとか時計を作ってくれとか、そんなところである。時間の神というが、ルファス神は事実、時間『を知らせる』神であり、時間を歪めて未来を知ったり、過去を確かめたりなどということはできないのだ。ルファス神は時間の流れが滞らないように監視している者なのだから。
(……怪しい……)
 しかもルナを連れて、というところがあからさまに怪しい。
 サミュエルは残っていたエール酒を飲み干すと、カウンターで昼食代を払うついでにルファス神殿の場所を聞き、ライカの後を追った。

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