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影踏み鬼
 休日の庭に、子供達の笑い声が響く。
 遠方から訪ねてきた従兄弟達と、追いかけっこをしたり隠れん坊をしたり。普段は大人しい松来家の子供達も、こういう時ばかりは年相応にはしゃいでみせる。
「旦那様」
 一緒に遊んでいたお手伝いの(ふみ)が、困り顔で戻ってきた。
「どうした?」
「坊ちゃま達が影踏み鬼をしたいと仰っているのですが……」
 私はその、と言葉を濁す文。そう、文は松来家に憑いた地縛霊。実体のない姿は影を落とさない。
「それなら、これを」
 手渡したのは朱塗りの傘。
「これなら文も遊べるだろう」
「名案です、旦那様!」
 嬉しそうに傘を差し、中庭へと駆けていく。
 やがて、数を数える声が聞こえたあと、弾けるような歓声が湧き起こった。
Twitter300字ss」 第七十六回「影」
 「影踏み鬼」または「影踏み」は結構昔から遊ばれていたようですね。色々な遊び方があるようですが、私が小さい頃に遊んだことがあるのは、鬼が一人いて、その鬼に影を踏まれたら交代、というやつです。
 実体がないため影を持たない文さんですが、念力で傘を持つことは出来るので、嬉々として参戦した模様。しかし影が大きい分、踏まれないようにするのは大変そうです。
2021.06.05

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