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手土産
 浅草を訪れたのは、一体何ヶ月ぶりだろうか。
「へえ、これが仲見世ですか。大層な賑わいですね」
 つい先日『松和荘』にやってきたばかりの青年は、あまりの混雑ぶりに目を丸くしている。
「折角だからお参りをしていこう。そのあとで土産を選ぶのを手伝ってくれるかい?」
(ふみ)さんにですか」
「……下宿の皆に、だよ」
 前回は羊羹、その前はかりんとう。どれもさして値の張るものではないが、あの蕩けるような笑顔が見たくて、今日もつい寄り道をしてしまう。
「これなんかどうですか? 浅草の名所を象っているそうですよ」
 目の前で次々と焼き上がる菓子に、歓声を上げる子供達。
「連れてきてあげたら、もっと喜ぶと思いますけどね」
「そう、だな……」
 こちらは第6回 Text-Revolutions内有志企画「300字SSポストカードラリー」参加作品。お題は「お菓子」でした。
 更に企画内企画「ご当地菓子巡り」にも参加するため、東京のお土産と言えば何だろう、と色々考えた結果、浅草名物の「人形焼」に登場いただきました。

 ちなみに、これはまだ文さんが存命だった頃のお話。下宿人にせがまれて浅草を案内しているのは松来家の若き当主・和臣です。
 「下宿の皆に」と言っていますが、下宿人はみんな食べ盛りの大学生ですから、ちまちました菓子はさほど喜ばれません。なので、明らかに文さんへのお土産を選んでいるのだと分かります(笑)

 ポストカードの裏面に載せたSSも合わせてお楽しみください♪
2018.04.18


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© 2018 seeds/小田島静流