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甘菓子
「まあ、人形焼ですわね」
 差し出した紙袋を見て懐かしそうに呟くのは、『松和荘のマドンナ』こと(ふみ)さん。百年の長きに渡り松和荘を見守ってきた――いわゆる『地縛霊』だ。
「以前、旦那様から頂いたことがありますの」

 ――目の前で焼いてくれるんだ、とても面白かったよ。今度、見に行かないか――

 そんな約束は、果たされなかったけれど。

「あー、おやつだおやつ!」
「いただきまーす」
 目敏く群がってきた下宿人によって、あっという間に袋は空になり――。
「文さんへのお土産だったのに……」
「いいんですのよ。今度、また買って来てくださいまし」
 今も昔も、きっとこの先も。
 この笑顔が見たくて、松来家当主はいそいそと、甘い菓子を選ぶのだ。
 こちらは第6回 Text-Revolutions内有志企画「300字SSポストカードラリー」参加作品「手土産」の裏面。
 裏面は現在の松和荘の面々に登場いただきました。
 人形焼を買って来たのは大家の香澄さん。文さんは幽霊なので飲食は出来ませんが、可愛いお菓子を見ること自体が好きなのと、それをみんなが美味しそうに食べているところを眺めるのが好きなので、こういったお土産を渡すととても喜んでくれます。
 なお、現在の松来家では当主制度はなくなっているのですが、「収入源である松和荘を任されている人間=実権を握る者」ということで、親族や文さん、更に古株の住人からは「現当主」として認識されています。

 表面の「手土産」も合わせてお楽しみください♪
2018.04.18


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