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夕涼み
 中庭に縁台を並べ、蚊取り線香を焚く。
 大量に茹でた枝豆とトウモロコシは(ざる)のまま縁側に並べ、氷水を張った(たらい)にはビールとジュースをセットした。
 台所の冷蔵庫では、大玉の西瓜が出番を待ち侘びている。
 ようやく涼しくなってきた風が軒先の風鈴を鳴らせば、浴衣に着替えた面々が続々と集まってきた。
「やあ、お招きありがとう」
 売れ残りの花火を手土産にやって来たご近所さんに、キンキンに冷えた缶ビールを渡し。
「いやー、まさに『夕涼み』って感じですねー」
 呼んでもいないのにちゃっかりやってきた不動産屋には、後で西瓜を切る大役を任せることにして。
「さあ、始めましょうか」
 今時なかなか味わえない『日本の夏』を、心ゆくまで楽しもう。
Twitter300字ss」 第六十八回「夕」
 「夕涼み」という言葉、最近では「夏の納涼行事」のような意味合いで使われることが多いような気もします。
 そもそも、すでに概念になりかけてますよね。だって夕方になっても、ちっとも気温が落ちないんだもん……(涙)
 現実の日本は九月になっても灼熱地獄ですが、せめて物語の中では季節を楽しんでいただきたいな、と、松和荘で夕涼み会を企画してみました。
 実は私自身、こういう「ザ・日本の夏」は体験したことがなくて……。一度でいいから楽しんでみたいですね。
2020.09.04

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© 2020 seeds/小田島静流