一番街は《世界樹の街》の中で最も広く、そして最も古い街。旅人が最初に足を踏み入れる街でもあることから、『始まりの街』とも呼ばれています。
《白羊門》と呼ばれる正門は陸路の玄関口。朝から晩まで旅行者や荷馬車が行き交っています。
街は正門広場を中心に、半円状に広がっています。整備された道も多く、平坦で歩きやすい街区ですが、奥へ進むほど道が複雑に入り組んでおり、住人でも迷ってしまうことがあります。
はじめて訪れた方は、まず『一番街郵便局』の玄関横に掲げられた案内図を見て、目的地と経路を確認するとよいでしょう。
一番街には獣人や有翼人など様々な種族が集まっているため、今までに見たことのない姿の住人に遭遇する機会も多いでしょう。
身長や体格、生活様式の異なる住人達が過ごしやすいよう、街のいたるところに工夫が施されており、独特の雰囲気を生み出しています。
白羊門
…街の玄関口であり、一番街の象徴でもある大きな街門です。日の出から日の入りまで開放されています。門兵が常駐しており、街へ入る際には身分証明書や通行証の提示が必要です。
正門広場
…白羊門前に広がる大きな広場です。毎月、十のつく日には青空市が開かれ、とても賑やかです。また、広場周辺には郵便局や宿屋、飲食店や雑貨屋など、生活に必要なお店が集まっています。
①一番街郵便局
…正門広場に面して建つ郵便局―通称『本局』です。陸路で届いた手紙や荷物は一度ここに集められ、各地へ配達されています。
手紙や小包を運ぶ『空便』は有翼人を中心に、荷車や荷馬車などを用いて大きな荷物を配達する『陸便』は体力・脚力自慢の種族を中心に構成されています。
なお、窓口では切手や梱包材のほか、オリジナルの便箋や文房具なども取り扱っています。売れ筋商品である『うさ耳印』の便箋や万年筆などは本局限定販売ですので、お買い求めの際はご注意ください。
②独身寮《蜂の巣》
…本局の裏手にある五階建ての寮です。本局に勤務している配達員のほとんどがこの寮で生活しています。三階以上は有翼人専用の部屋になっており、地上に降りずに帰寮できるよう、三階部分にも集合玄関が用意されています。
夕方になると配達員達が一斉に帰寮して大賑わいになることから《蜂の巣》という名前がついたと言われています。
③冒険者の酒場《竜の巣亭》
…《世界樹の街》へやってきた冒険者が真っ先に顔を出す酒場です。各種依頼の斡旋のほか、冒険仲間の募集などもここで行っています。
乗合馬車
…他の街区へ向かうには、乗合馬車に乗るのが一番です。広場の片隅にある停留所から五番街・七番街への乗合馬車が出ています。
天秤門
…七番街へ通じる門です。正門と同じく、日の出から日没まで通行が可能です。
天秤門には探知の魔術が展開されており、通行者が規定量以上の武器や危険物、魔術道具などを所持していないかを確認しています。規定量を超えた分や持ち込みを禁じられた物品に関してはその場で没収となりますのでご注意ください。
噴水広場
…旧市街と新市街の境に位置する広場です。その名の通り、中央に大きな噴水が設置されています。
④時計塔
…噴水広場に面して建つ時計台です。日の出から日の入りまで、一時間ごとに鐘を鳴らして時刻を告げています。
獅子門
…五番街へ通じる門です。獅子門は常時開放されており、通行証等の提示も必要ありません。
⑤教会
…獅子門そばにある古い教会です。世界樹を意匠化した美しいステンドグラスが有名です。一番街出身の画家エリュケーが手掛けた創世神話の天井画も見どころの一つです。
⑥図書館《ウィオラケウスの宝物庫》
…一番街の外れにある図書館です。元々は大賢者マグナス=ウィオラケウスの邸宅兼研究所で、広大な敷地の半分以上が書物の収蔵庫となっています。
収蔵庫にはマグナスが生涯をかけて収集した書物が収められており、彼の死後は遺言により、広く一般に開放されるようになりました。
簡単な会員登録をすれば誰でも利用可能ですが、敷地外への持ち出しは禁止されており、蔵書を持って外に出ようとすると罠魔法が発動します。また、立ち入り禁止区域には貴重な魔法道具や禁書指定された魔術書などが厳重に保管されています。
⑦《白夜城》
…旧市街の一角にある石造りの古城です。倒壊の危険性があることから立ち入り禁止区域になっていましたが、いつからか《血まみれ侯爵》と名乗る人物が古城を占拠し、一帯を支配するようになりました。
ならず者の溜まり場になっているとか、怪物が夜な夜な跋扈しているなど、不穏な噂が絶えません。
旧門
…かつては十一番街と繋がっていましたが、現在は封鎖されています。
街の内部から見ると確かに門が存在していますが、街をぐるりと取り囲む街壁の外側に回ると、あるはずの門が見当たりません。
これは様々な《世界樹の街》が不思議な力によって繋がっている証であり、その神秘を垣間見ることのできる貴重な遺構です。
⑧喫茶《小夜啼鳥》
…白羊門の近くにある樹上喫茶店です。門が閉まっている間のみ開店している風変わりなお店で、初老の店主が一人で切り盛りしています。世界中から集められた選りすぐりの茶葉と茶器で、とっておきの一杯を楽しむことが出来ます。
おすすめはオリジナルブレンド『小夜啼鳥の囀り』と日替わりケーキです。
⑨古着屋《びっくり箱》
…冒険者の酒場《竜の巣亭》そばにある、こじんまりとしたお店です。ここには《世界樹の街》のあちこちから集めた古着が揃っており、世界を超えて旅する冒険者達が現地の服を調達しにやってきます。
衣類だけでなく帽子や靴、装身具なども豊富に用意されており、組み合わせに悩んだ時は、店主に相談すれば予算内で目的に応じたコーディネートをしてくれるでしょう。また、不要になった衣類や装備の買い取りも行っています。
一番街の歴史
一番街の歴史は古く、少なくとも三百年以上前から存在していたことが分かっています。街道が整備されるまでは訪れる者も少なく、近隣の住人しか知らない隠れた名所でしたが、百年ほど前に新しい街道が作られてからは観光客や冒険者などが集まるようになり、街の規模も次第に拡大していきました。
一番街は他の街区と異なり、街全体が《世界樹の街》に属しています。
街区によっては数区画だけが《世界樹の街》に組み込まれているところもあるため、その広さは桁違いです。
一番街から見た《世界樹》
一番街の世界樹は、その大きさを推し量ることも出来ないほど巨大な常緑樹です。百年に一度、花を咲かせるという噂もあります。
ただし、一番街は世界樹からもっとも遠い街区であるため、世界樹は街の遥か後方に聳え立ち、葉擦れの音もほとんど聞こえません。
街道から一番街を目指してやってきた旅人は、小高い丘を越えたあたりで突如視界に飛び込んでくる世界樹の姿に圧倒されることでしょう。
《世界樹》の謎
…不思議なことに、一番街の《世界樹》だけは、その根元に辿り着くことが出来ません。世界樹に一番近いであろう『獅子門』は別の街区に繋がっており、そこから『一番街の外』には出ることが出来ないのです。
一番街は《世界の果て》と呼ばれる断崖絶壁の上に作られた街なので、街の外に出てから外壁を回りこむことも出来ません。
地図上では、《世界樹》は崖下に生えていることになりますが、それを確認した者は未だかつて存在しません。
見えているのに辿り着けない場所――それが一番街の《世界樹》です。
番外編:街の外を歩こう
一番街《ユグドラシルタウン》はアルステラ大陸の最西端、《世界の果て》と呼ばれる断崖絶壁の上に作られた街です。
《世界の果て》の向こうは果てしない海が広がっていると言われていますが、崖下は霧に覆われ、海面を確認することはできません。
街周辺は丘陵地帯で、街道はいくつもの丘を越えて伸びています。
一番近い村は馬車で半日ほどの距離にあり、街で市が立つ日には村人達が新鮮な野菜や卵、牛乳などを売りにやってきます。
周辺の名所① クロノ砦
崖沿いにある砦跡です。いつの頃のものかははっきりしていませんが、今でも塔や石壁の一部が残っています。街中にある《白夜城》の建築様式に似ていることから、何らかの関係があるのでは、とも言われています。
周辺の名所② 青の丘
春先から初夏にかけて、丘陵地帯は色とりどりの花で埋め尽くされますが、その中でたった一つだけ、真っ青に染まる丘があります。『星空草』と呼ばれる青い花の群生地となっているその丘は、季節限定の観光スポットとしてひそかな人気を呼んでいます。
また、『星空草』はよい染料になるため、染物職人達は丘が青く染まる日を心待ちにしています。
周辺の名所③ 石神殿
丘陵地帯の外れにある巨石群です。神殿と呼ばれてはいますが、それが本当に神殿跡なのかどうかは分かっていません。かつて、この辺りに暮らしていた巨人族が、何らかの儀式を執り行っていた場所なのではないかとも言われています。
Column:黄昏の巨人
…かつて、このあたり一帯は『黄昏』と呼ばれる巨人達の暮らす土地だったという伝承が残っています。しかし、数百年前の『大災厄』を機に、彼らは新天地を求めて旅立ったと言われています。
幻燈書房発行『《世界樹の街》の歩き方 ~一番街編~』より抜粋