海風に花の香りが混じり出したら、カナン港が近い証だ。
大陸を繋ぐ貿易航路の中継地として賑わう港町カナン。断崖にへばりつくようにして形成された白壁の町並みに、色鮮やかな花々が映える。
ようやく桟橋が見えてきたあたりで、頭上から声が降ってきた。
「おーい!」
見上げれば、太陽を背に羽ばたく鴎の翼。
「おかえりなさい、ザプロス号!」
「よお、オルト! 相変わらず目ざといな」
数年前に知り合った翼人族の少年は大の船好きで、港に入る船を見つけては、こうして『文字通り』飛んでくる。
「船長、今度の船旅はどうだった?」
「聞いて驚け、碧海航路で白鯨を見たぞ」
「すげえ!」
今日は揺れない地面を満喫しながら、土産話に花を咲かせよう。