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花薫る港
 海風に花の香りが混じり出したら、カナン港が近い証だ。
 大陸を繋ぐ貿易航路の中継地として賑わう港町カナン。断崖にへばりつくようにして形成された白壁の町並みに、色鮮やかな花々が映える。
 ようやく桟橋が見えてきたあたりで、頭上から声が降ってきた。
「おーい!」
 見上げれば、太陽を背に羽ばたく鴎の翼。
「おかえりなさい、ザプロス号!」
「よお、オルト! 相変わらず目ざといな」
 数年前に知り合った翼人族の少年は大の船好きで、港に入る船を見つけては、こうして『文字通り』飛んでくる。
「船長、今度の船旅はどうだった?」
「聞いて驚け、碧海航路で白鯨を見たぞ」
「すげえ!」
 今日は揺れない地面を満喫しながら、土産話に花を咲かせよう。
Twitter300字ss」 第六十六回「橋」
 故郷・三番街カナンで暮らしていた頃の、オルト君のお話。
 港町で生まれ育ったオルトは船――特に大型の交易船が好きで、よく港に入り浸っていた模様。気の良い船乗り達と交流を深めていたようです。
 それでも船乗りになろうと思わなかったあたりは、やはり背中に翼を持ち、空と共に生きる種族のさがでしょうか。

 ちなみに、カナンの町並みはイタリアのアマルフィがモデルのひとつです。
 
2020.07.04


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