「今夜、『月光キノコの森』で音楽会があるんだ」
そんな話が出たのは、雨に降り込められた午後。
「なんだそりゃ?」
情報通の配達人が首を傾げるくらいだから、新入りの看板娘が知る由もない。
「まあまあ、騙されたと思ってついて来て」
揃いの雨具に身を包み、向かったのは世界樹の根元。
うねる根っこの隙間を通り抜け、辿り着いたのは――巨大キノコが生い茂る森。
「なんだこりゃ!」
「とても幻想的です!」
ぼんやりと光るキノコの下、奏でられる楽の音はしっとりと柔らかく。
巨大なかさが弾く雨粒は、小気味のいいリズムを刻む。
キノコの光が薄れ出したら、終幕の合図。
「長雨の夜に、またお会いいたしましょう!」
挨拶と共に、闇の帳が降りた。