珍しく外出などしたのがいけなかったのだろうか。あちこちで呼び止められて世間話に付き合っているうちに、気づけば帰宅時間を大幅に過ぎていた。
「もうこんな時間か。お嬢ちゃん達が待ってるんだろう? さっさと帰ってやんな」
誰のせいで遅くなったんだ、と文句を言ってやりたいところだったが、お土産に焼きたてのパンを持たせてくれたので、上機嫌で帰路に就く。
夕闇に沈む大樹の根元、今にも倒れそうな建物の窓に灯る柔らかな光。
「お帰りなさい、ユージーン!」
「遅いじゃないか、おっさん。どこで道草を食ってたんだよ」
扉を開けた途端、賑やかな声が飛んでくる。
「ただいま。遅くなってごめんね」
この言葉を紡げる幸せに、今だけ浸らせて。