世界樹の根本には、かつて村があったという。
それは遠い遠い昔話。いまや集落の痕跡もなく、残っているのは苔むした墓石が幾つか。それだけだ。
「名前も残されていないのですね」
「墓が残ってるだけいいんじゃないか? 俺達には墓すらないからな」
からりとした口調。世界樹を見上げる翼人の横顔は、驚くほど穏やかで。
「どういうことです?」
「俺達は空に融ける。風になって、どこまでも世界を巡るんだ」
あまりにも当たり前のことのように言われてしまったから、「それはただの伝承ではないのですか」とは聞けなかった。
「風になって、いつだってそばにいるよ」
だから悲しむなよ、と頭を撫でてくる、その手をぎゅっと掴む。
「約束ですよ」
「ああ」