[TOP] [HOME]

(いにしえ)のまじない
「よお、今日も精が出るな」
 いつものように骨董店へ顔を出したオルトは、真っ赤な顔をして縫物に勤しむ看板娘の姿に、思わず顔をしかめた。
「お前、暑くないのか?」
「魔導人形は暑くても大丈夫なのです!」
 そうは言っても、陽炎月だというのに長袖のドレスを着込み、腰までの髪を下ろしたままでは、見ているこちらが暑いというものだ。
「せめて髪を結んだらどうだ?」
 苦し紛れの提案に、少女は困ったように指を突き合わせる。
「実はその……自分で髪を結んだことがないのです」
 そんなことだろうとは思ったが、さすがのオルトも髪結いばかりは専門外だ。
「あれ、今日は早いねオルト君」
 呑気な声に振り返り、ぽんと手を打つ。
「おっさんの出番だな」


 一本結びは 必中の守り
 二つ縛りは 精霊の庇護
 細い三つ編みは 災い避け
 祈りを込めて房を束ね 願いを込めて髪を編む
 (いにしえ)より伝わる エルフの(まじな)


「古来より、髪型には(まじな)いの意味が込められていたんだよ。毛髪には魔力が宿るとされていたからね、それはもう大切にされていたんだ」
 長い髪をするすると編み込み、形よく結い上げる。そのさまは、まるで魔法のようで。
「はい、出来上がり」
 恐る恐る手鏡を覗いた少女は、その仕上がりにぱあ、と瞳を輝かせた。
「お姫様のようです!」
 ニコニコと鏡を見つめる少女の横で、やれやれと溜息をつくオルト。
「それだけ出来るなら、自分の髪もきちんと結べよ」
「えー、やだよ面倒くさい」
 『(まじな)い』はどこへ行ったやら。

 夏場は首の後ろが蒸れるんですよ(溜息)
 銀の長い髪がトレードマークのお人形ちゃんことリリル・マリルですが、恐らく「結ばない」のではなく「結べない」んだろうなあ、と思ってしまったら、こんなお話に(^^ゞ

 ユージーンは普段、かなり適当に髪を結んでますが、やれば出来るんです……やらないだけで……。
 この後しばらく、ユージーンを実験台にした髪結い教室が開かれるんじゃないかと思います。(そして当たり前のように巻き込まれるオルト)
2018.07.06


[TOP] [HOME]