いつものように骨董店へ顔を出したオルトは、真っ赤な顔をして縫物に勤しむ看板娘の姿に、思わず顔をしかめた。
「お前、暑くないのか?」
「魔導人形は暑くても大丈夫なのです!」
そうは言っても、陽炎月だというのに長袖のドレスを着込み、腰までの髪を下ろしたままでは、見ているこちらが暑いというものだ。
「せめて髪を結んだらどうだ?」
苦し紛れの提案に、少女は困ったように指を突き合わせる。
「実はその……自分で髪を結んだことがないのです」
そんなことだろうとは思ったが、さすがのオルトも髪結いばかりは専門外だ。
「あれ、今日は早いねオルト君」
呑気な声に振り返り、ぽんと手を打つ。
「おっさんの出番だな」
一本結びは 必中の守り
二つ縛りは 精霊の庇護
細い三つ編みは 災い避け
祈りを込めて房を束ね 願いを込めて髪を編む
「古来より、髪型には
長い髪をするすると編み込み、形よく結い上げる。そのさまは、まるで魔法のようで。
「はい、出来上がり」
恐る恐る手鏡を覗いた少女は、その仕上がりにぱあ、と瞳を輝かせた。
「お姫様のようです!」
ニコニコと鏡を見つめる少女の横で、やれやれと溜息をつくオルト。
「それだけ出来るなら、自分の髪もきちんと結べよ」
「えー、やだよ面倒くさい」
『