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迷路の街
 迷う、迷う、迷う――。

 これはもう、ボクが方向音痴だからとか、初めて来たからだとか、そんなレベルの話ではない。
 噂に聞く《迷路の街》は、まさかの『一定時間ごとに区画がシャッフルされる』街だった。
 やれ古代文明の遺産だとか、やれ異世界からもたらされた魔法技術なのだとか、はたまた宇宙人の介入がどうとか、色んなことが言われているらしいけど、詳しいことは何も分かっていない。
「三角屋根のカフェ? ああ、オッターさんとこの」
「うん、確かにあるよ。この街のどこかにね!」
 目的地までの道を尋ねても、返ってくるのはこんな答えばかり。
 すぐに位置が入れ変わるから地図も作れないし、通りには名前さえついていない。だから『住所』なんて概念は存在しないのだ、というのが彼らの言い分で。
 つまり、行きたい場所があるならばひたすら歩いて探すしかないし、探している間にシャッフルされたら、また一からやり直しだ。

「やっと着いた……」
 シャッフルによる三度のリセットを乗り越えて、ようやくお目当てのカフェを見つけ出した時には、すっかり息が上がっていた。
「やあ、思ったより早い到着だね」
 テラス席でのんびりと本を読んでいた友人は、汗だくのボクを見て楽しそうに笑みを浮かべている。
「もう、なんでこんな面倒な街に住むことにしたのさ」
 数年ぶりの再会だというのに、開口一番文句を言ってしまったのも、致し方ないというものだろう。
 あまりにも不躾な質問に、友人は気を悪くすることもなく、むしろ「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに、銀縁の眼鏡をくいと引き上げた。

「だって、ここには『当たり前』がないんだよ! 毎日がデタラメでメチャクチャだ。こんなに楽しいことはないだろう?」

 地図もない。住所もない。手紙もろくに届かないし、買い物どころか待ち合わせすらままならない。
 そんな不便さと不条理さを楽しめる者だけが暮らす、不可思議な街。

「きっと君も気にいると思って」
 確信に満ちた表情が、何とも小憎らしい。
 悔しいことに、この友人はボク以上にボクの好みを把握している。
 とはいえ、素直に認めてしまうのは癪だから、わざと悩んだふりをする。
「そんなの、しばらく暮らしてみないと何とも言えないだろ」
「ああ、その通りだとも! 僕の家に逗留して構わないよ。部屋は余ってるんだ」

 我慢できずにさっさと逃げ出してしまうのか、それとも案外すぐに慣れてしまうのか。
 ――ボクの未来は、果たしてどっちだ。
まだまだ! ジャンル迷子オンリー」 展示作品
 2022年9月10日~11日にweb上で開催された「まだまだ! ジャンル迷子オンリ-」に展示作品として出した書き下ろしのSSです。
 「世界樹の街」のどこかに組み込みたいので、とりあえずここに置いておきます。
2022.09.13


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