カラン、と乾いた音がして、扉が開く。
「いらっしゃい、ちょうど新しいのが焼き上がったところだ」
焼きたてのパンを棚に並べていた髭面の店主は、やってきた客の姿におやおや、と目を瞬かせた。
「今日は随分とめかしこんでるじゃないか」
揶揄うつもりはなかったが、いつも着の身着のまま出歩いている輩が、髪に色とりどりの花やリボンを編み込んでいれば、さすがに目を惹く。
「髪結いの練習台になってたんだよ」
どこか得意げな様子に、すぐ合点がいった。
「ああ、なるほど。例の看板娘ちゃんだな。まだまだ練習が必要みたいだが」
骨董店の看板娘リリル・マリルは美しい銀髪の持ち主だが、鏡を見ながら自分の髪を編み込むより、他人の髪で練習した方が手っ取り早い。そういう意味では、長い髪を持ち、じっとしていることを厭わない店主は、練習台としては打ってつけだろう。
「お祭りまでに、自分で結えるようになりたいんだって」
裁縫上手な彼女だが、髪を結うのは使用人に任せていたらしく、首の後ろで一つに結わえるのがやっと、という状態からここまで来るのに半月かかった。とはいえ、コツを掴めばすぐに上達するはずだ。
「そりゃいい、きっと似合うだろうな」
「ああ、僕よりずっとね」