賑やかなファンファーレ、踊る人形達。そして最後に砂時計がくるりと回れば、お待ちかねの『開放時間』だ。
『門』をくぐって、異世界からの客人がやってくる。
大きな荷物を背負った商人、黒猫を従えた魔女。鹿撃ち帽を被った探偵に、羽衣をなびかせた麗人――。
「なんだいなんだい、仮装大会でもあったのかい?」
いつもに増して個性豊かな客人達の姿に、屋台の女主人は思わず首を傾げた。
ここは魔法街ザナヴェスカ。異世界からの旅人も数多く訪れる街だが、今日の来訪者達はどこか異質だ。
「騒がしくてごめんなさいね、昨夜は四番街でお祭りがあったのよ」
注文ついでに教えてくれたのは、常連客の一人だった。いつもは黒い長衣姿の彼女も、今日は色鮮やかな衣装に身を包み、小脇にカボチャを抱えている。
「本来は厳かな行事だったらしいのに、今や単なる仮装パーティね」
なんでも、年に一度、異界に繋がる門が開くとされている夜に、仮装をして『異界のお化け』をやり過ごす風習が変化したものらしい。
「元々は六番街から伝わった風習らしいんだけど、年々規模が大きくなっちゃって。今年はもう、お祭りというより乱痴気騒ぎだったわ」
だからね、と楽しそうに笑う常連客。
「《
ああ、これだから。
魔女という生き物は恐ろしいのだ。
「……命だけは勘弁しておやりよ?」
「当たり前じゃない。私は優しい魔女だもの」
元の世界に戻る手がかりくらいは教えてあげるつもりよ、と微笑んで、好物の串焼きに齧りつく。
背後では、ようやく事の重大さに気づいたらしい客人達が騒ぎ始めていた。