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巨蟹門
 からくり時計が正午を告げる。
 賑やかなファンファーレ、踊る人形達。そして最後に砂時計がくるりと回れば、お待ちかねの『開放時間』だ。
 『門』をくぐって、異世界からの客人がやってくる。

 大きな荷物を背負った商人、黒猫を従えた魔女。鹿撃ち帽を被った探偵に、羽衣をなびかせた麗人――。
「なんだいなんだい、仮装大会でもあったのかい?」
 いつもに増して個性豊かな客人達の姿に、屋台の女主人は思わず首を傾げた。
 ここは魔法街ザナヴェスカ。異世界からの旅人も数多く訪れる街だが、今日の来訪者達はどこか異質だ。
「騒がしくてごめんなさいね、昨夜は四番街でお祭りがあったのよ」
 注文ついでに教えてくれたのは、常連客の一人だった。いつもは黒い長衣姿の彼女も、今日は色鮮やかな衣装に身を包み、小脇にカボチャを抱えている。
「本来は厳かな行事だったらしいのに、今や単なる仮装パーティね」
 なんでも、年に一度、異界に繋がる門が開くとされている夜に、仮装をして『異界のお化け』をやり過ごす風習が変化したものらしい。
「元々は六番街から伝わった風習らしいんだけど、年々規模が大きくなっちゃって。今年はもう、お祭りというより乱痴気騒ぎだったわ」
 だからね、と楽しそうに笑う常連客。
「《本物の異界(・・・・・)》がどんなものか、見せてあげようと思って。招待してあげたのよ」
 ああ、これだから。
 魔女という生き物は恐ろしいのだ。
「……命だけは勘弁しておやりよ?」
「当たり前じゃない。私は優しい魔女だもの」
 元の世界に戻る手がかりくらいは教えてあげるつもりよ、と微笑んで、好物の串焼きに齧りつく。
 背後では、ようやく事の重大さに気づいたらしい客人達が騒ぎ始めていた。
Novelber 2020」 01 門
 twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「門」。
 魔法街ザナヴェスカの、11/1の様子です。
 ちなみに、お祭りが開かれていたという「四番街」は一年を通して不思議なバザールが開かれている街。会場である広場全体が「四番街」です。
 一方、「六番街」は現代日本の一角なので、日本から伝わった「ちょっとおかしなハロウィン」が更に変化して、酷いことになった模様……。

(初出:Novelber 2020/2020.11.01)
2021.01.14


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