秋も深まってくると、道端が落ち葉で埋もれてくる。
ろくに通行人などいない道であろうとも、店の前が落ち葉だらけなのは見た目が悪いからと、時間を見つけてはせっせと掃き掃除をしている看板娘だったが、掃いても掃いてもまた降り積もる葉に、そろそろ息切れしそうだ。
「無理して掃除しなくてもいいんだよ。どうせそのうち風で飛んでいくんだし」
「そうはいきません! 放っておいたらお店ごと埋もれてしまうのです!」
愛用の箒を手に、朝から落ち葉と格闘すること、早五日。毎日掃き掃除をしているうちに、ふと気づいたことがある。
「ユージーン。世界樹は落葉しないのですか?」
骨董店は世界樹の根元に建っているから、落ち葉が多いのは仕方ないと考えていたが、考えてみれば、せっせと掃き清めている葉はみな、店周辺に生えている木々のものだ。
世界樹が何の木か、なんて考えたこともなかったが、葉の形からして広葉樹であることは間違いない。しかし、世界樹の梢から葉が落ちてきたことなど、ここに来てから一度も見たことがなかった。
「ははは、もし落ちてきたら、この店なんかぺしゃんこだろうね」
世界樹の葉っぱはこの店の屋根より大きいから、と言われて、改めて世界樹の大きさと異質さを痛感する。
街を覆う巨木は、ただ歳月を経て大きく成長したわけではない。はなから種類が違うのだ。
「笑い事ではないのでは?」
「大丈夫。万が一落葉しても、地上に落ちてくる前に、風に融けて消えてしまうから」
ちゃんとこの目で見たことがあるから、と太鼓判を押す店主。このぐうたらエルフは適当なことも言うが、少なくとも嘘偽りは口にしないから、それは紛う方なき事実なのだろう。
「それなら安心して掃き掃除が続けられますね」
「まあ、ほどほどにね」
ひらひらと手を振り、裏庭へと消えていく店主。また昼まで惰眠を貪るつもりだろうか。まあ、お客さんが来ることなど滅多にないから、特に問題はないのだけれど。
昼までに区切りのいいところまで掃いてしまおうと、掃除を再開する。
風が吹くたび舞い上がる赤や黄色の葉っぱをせっせと集めながら、時折頭上を仰ぎ見れば、空を覆う枝葉は青々と繁り、落ちてくる様子などは微塵も感じない。
秋風に揺れてざわざわと心地よい音を立てる世界樹の梢は、どこか遠い世界のものにも感じられる。
こんなに近くてもなお、梢は遙か遠く。
すぐそばにあるはずの幹ですら、曲がりくねる根に阻まれて、触れることすら難しく。
根元の街『十二番街』においても、世界樹はやはり近くて遠い存在で。
もしかしたら、これは『木』ですらなく、『世界を支える仕組みそのもの』なのかもしれない。なぜかそんな想像をしてしまう。
「考えすぎ、ですよね」
ぽつりと呟いて、いつの間にか止まっていた手をせっせと動かす。
集めた落ち葉が風にかき乱されて、再び路上へと散っていくのを、また掃き集め―――。
落ち葉掃きは本当に、きりがない。きりはないが、それでもいつか終わりはやってくる。
「おーい、郵便だぞー」
飛んできた声にぱっと顔を輝かせた看板娘は、大空に向かってぶんぶんと両手を振ってみせた。
「いらっしゃいませ、オルト!」