仕事に疲れた日は馴染みの樹上喫茶に寄って、お気に入りの紅茶とケーキを注文する。
夜だけ営業している、隠れ家のようなお店。星屑角灯の淡い光に満たされた店内は、まるで深海にいるようで。
最近導入したという珈琲サイフォンの、こぽこぽという沸騰音が、なんとも耳に心地よい。
「はい、お待ちどうさん」
丁寧に淹れられた紅茶とつやつやの苺タルト。
深い香りと芳醇な味わい、そしてタルトのほどよい酸味と甘みが、ささくれた心を癒やしてくれる。
これぞまさに、大人の特権。深夜の贅沢だ。
「通ってくれるのは嬉しいが、残業もほどほどにな」
「はあい」
老店主の言葉が耳に痛いけれど、それも含めて、至福のひとときなのだ。