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深夜の贅沢
 仕事に疲れた日は馴染みの樹上喫茶に寄って、お気に入りの紅茶とケーキを注文する。
 夜だけ営業している、隠れ家のようなお店。星屑角灯の淡い光に満たされた店内は、まるで深海にいるようで。
 最近導入したという珈琲サイフォンの、こぽこぽという沸騰音が、なんとも耳に心地よい。
「はい、お待ちどうさん」
 丁寧に淹れられた紅茶とつやつやの苺タルト。
 深い香りと芳醇な味わい、そしてタルトのほどよい酸味と甘みが、ささくれた心を癒やしてくれる。
 これぞまさに、大人の特権。深夜の贅沢だ。
「通ってくれるのは嬉しいが、残業もほどほどにな」
「はあい」
 老店主の言葉が耳に痛いけれど、それも含めて、至福のひとときなのだ。
Novelber 2020」 23 ささくれ
 twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「ささくれ」。
 世界樹の街・一番街にある樹上喫茶『小夜啼鳥』での一コマ。
 日没から日の出までしかやっていない上に、地上から店へ出入りする手段が「縄ばしご」という、なかなかに客を選ぶお店なのですが、何だかんだで常連客が多いので、やっていけているようです。
 こちらは喫茶店なのでメインはお茶なのですが、夜間営業という性質上、文筆業の常連が多く、〆切前の「眠気覚ましにコーヒーが飲みたい」というリクエストに応えていった結果、お茶と同じくらい色々な珈琲が飲めるお店になった、という経緯があります(^_^;)

(初出:Novelber 2020/2021.03.19)
2021.04.15


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