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朝の作業
 朝、配達員達が出勤してまず最初にやることと言えば、本局に集められた郵便物のうち、自分の担当地域に配達する分をより分ける作業だ。
 本局二階にある作業室に集まって、予め街区ごとに分けられている郵便物を更に仕分け、配達順に並べ替えて鞄に詰め込んでいく。
 街区自体が広い一番街や三番街の担当は数多くいるが、もっとも狭い最奥の街・十二番街を担当する配達員は一人しかいない。
「むしろ、よくそんなに毎日、配達物があるわよね」
「十二番街って、ほとんど人が住んでないよな?」
 同僚らが不思議がるのも無理はない。現状、十二番街に暮らしている住人は二十人ほど、そのほとんどは自給自足の暮らしを行っており、外部との交流もほとんどないから、配達物もほとんどない。故に十二番街には郵便局すらなく、雑貨屋の前に小さなポストが設置されているのみだ。
 それでも。
「……訳分からん手紙や荷物が毎日のように届く店が、一軒あるからな!」
 半ばやけくそで仕分けを終えたオルトは、一番上の手紙に記されていた宛先を見て、ふうと溜息を零した。
『黄昏通り三番地 ユージーン骨董店』
 閑古鳥と暮らしているような繁盛ぶりにも関わらず、郵便物が途切れることのない謎の店。それがユージーン骨董店だ。店主の『ぐうたらエルフ』ことユージーンは居留守が得意で、四割の確率で再配達の憂き目に遭う。
「垂れ耳のおじさんは寝起き悪いからねえ」
「そんなレベルじゃないだろ!」
 一日に何回も往復するのは骨が折れるので、最近は店の前で粘るようになった。こうなってくると、もはや根比べだ。
「いってきまーす」
「ごめん、先に行くね!」
 慌ただしく飛び立っていく同僚達を横目に、オルトもまた手早く身支度を調える。配達はスピード勝負。まして一番遠い街区となれば、《最速の翼》と名高いオルトと言えども、のんびりはしていられない。
「それじゃジャック、また昼にな」
「あー、待ってよオルト! 僕ももう出るってば!」

 「novelber」のテーマ「手紙」用に書き出したものの、上手くまとめられなくてお蔵入りになっていた文章が出てきたので、手を入れて完成させました。
 オルト君はたった一人で十二番街全域をカバーしているのです……。『黄昏通り担当』と言っていますが、実のところ黄昏通り以外にはほとんど人が住んでないので(^_^;) 通り沿いも閑散としてて、空き家が目立ちます。骨董店のほかにはパン屋と雑貨屋と牧場があるくらいで、通りは日中でも人の往来がほとんどない、閑散とした地区です。
 この街区が賑わうのは星祭の時くらいですね。
2020.02.19


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