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鷽の鳴き声
「そんな願い事されても困るんだけどなあ…」
「あの人のためよ、骨董屋さん」
木彫りの鳥を手にマギーが言う。その時には骨董屋には人形の少女も翼のある配達人もいなかった。マギーが未亡人になったころには二人とも生まれていたかさえ怪しい。その頃の話だ
「自分で出来るだろうに」
「残念ね、私の魔力じゃ床に落ちた針を見つけ出して針入れに入れる程度だわ」
「そんなにちょっとだったのか」
「妖精の血は十世代以上も前の事よ。ほぼ人間。多少長生きで若く見えるだけよ」
「そうか」
「ひいが三つくらいつくおばあさんが耳がそんな感じだったらしいけれど」
垂れ耳を指さすマギー。若く見える。妙齢の女性にしか見えない。しかし彼女はほぼ老人の姿でいるユーリ、ゴーシュというあだ名の主人よりも年上だという。
「いくつ年上」
「女性に年聞くとは、いい度胸ね」
「悪かった…」
魔法使いの一族の端くれということはマギーは骨董屋の主にある程度のダメージを与えられる可能性がちらりとではあるが、あるのだ。
「わかったよ…考えておく」
木彫りの鳥は骨董屋のテーブルに置かれた。死にかけの手芸店の主のために、あることをしてほしいとその妻マギーは願い出てきた。
「ユーリは知っているよ、君の嘘なんて」
最初の子は死産だった。次女は母方の先祖の血を濃く受け継いだため一番街であったか定かではないが、ある魔女に引き取られていった。そしてその娘はよりにもよって駆け落ち結婚して今は所在不明だ。相手は魔女の弟子とだけ骨董屋の主は伝え聞いている。
「さて。やるほかないか」
庭に例の木彫りの鳥を手にしてのっそりと出て行く。風向きやらいろいろ考察してから適度な土の上に木彫りの鳥を置いた。そして呪文を唱える。炎の竜の力を呼び出し、木彫りの鳥に引火させるのだ。まあ素直に来てくれる自信はないが、マギーよりは火の竜との付き合いはある方だ。あまり来たことはないが、火の竜は呼び出せないわけではない。火が必要の時は呼び出しはしたが成功率は低く、仕方なく火起こしフイゴの世話になってる。失敗すると大やけどの可能性がないとは言えない。樹木のエルフである以上それは仕方ない。

わが友にして火の竜たるものよ、
この鳥の中にこめられし嘘を燃やし尽くし、
まことの愛のみ、われとあの者に示せよ…

呪文の向こうに骨董屋の主はある光景を見いだしていた。こういう時だけ来るんだよなあ、火の竜は。姿が見えないけどさあ…と彼はぼやいた。
「知っていたよ、マギー。だからもう嘆かないで。僕は幸せだよ」
手芸店の主はそう言い残すと静かに旅立っていった。飛び跳ねて喜んだ子は…生を持ってはいなかった。その後奇跡的に宿った子が生まれてまたも跳ね回った。ついでに骨折してみんなに馬鹿だと手芸店の主人は笑われた。二度と身ごもれないと医師に判断されたのに生まれた娘だった。あまりにも嬉しすぎてやらかしたのだ。そんな思い出の香りが骨董屋に残った。早速小瓶にしてみた。その小瓶を見てマギーが笑って言った、「おいくらかしら」と。



 つんたさんが、前回書いてくださった「ゴーシュと呼ばれた人」の、思い出の小瓶のご夫婦のお話を再び綴ってくださいました! まさかのシリーズ化! ありがとうございます!
 サイト転載OKを頂きましたので、飾らせていただきます! つんたさん、本当にありがとうございました……!!



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