300字SS

夜明け前

 時計職人の朝は早い。 真っ暗な部屋を抜け出し、角灯の明かりを頼りに階段をのぼる。 鳩小屋の前を忍び足で通り抜け、やっとのことで鐘楼へと辿り着けば、安らかな寝息が聞こえてきた。「おーい、そろそろ起きてもらえませんかね」「ふわああああ、もう朝…

新たなる研究課題

 ほんの気紛れで拾い育てることにした子供は、読み書きが出来ないばかりか、食事の作法さえ知らなかった。まあ、その程度のことを教え込むなど、賢者と謳われる私にとっては造作もない。問題は――。「よし、今日はここまでにしよう」 鐘の音を合図に本を閉…

tasting

 ひょんなことからコンビを組むことになった相棒は、まさに『万能』だ。仕事は言うに及ばず、シャツのアイロン掛けから庭木の手入れまで、何をさせてもそつなくこなす――はずだった。「おい。主に毒見させるってのはどういう了見だ」「毒見とは失礼な。新作…

カササギ

 連結橋を接続する時は、いつだってドキドキする。 小型宇宙船とコロニーを繋ぐ白い連結橋。ナビゲーターの指示に従って停止し、ゆっくりと伸びてくる武骨な「翼」を、今か今かと待ち構える。『こちらコントロール。《カササギ》の接続を確認。これよりハッ…

天つ風

 古びた絵本を閉じ、「おしまい」と結ぶ。 瞳をキラキラさせて耳を傾けていた幼子は、朗読が終わるや否や、こう尋ねてきた。「おばあちゃん、風ってなに?」 ああ、そうだ。第三世代のこの子達は、エアーコンディショナーが吐き出す清浄で単調な空調しか知…

刹那の夢 ~HIKARI・Epilogue~

 機械は夢を見ない。だからこれは私――館内制御システム《Clio》のメモリに刻まれた、確かな記録。 S.D.121.06.02 17:58pm、展示管理番号A-08より館内ネットワークを通しての呼びかけあり。「コンバンハ クリオ」『こんばん…