SS・書庫の主
松来家のお屋敷には、当主以外立入禁止の書庫がある。 当主しか鍵を持っていない――ということになっているが、実のところ鍵などかかっていない。 この部屋に入れること・・・・・・・・・・こそが、松来家当主に求められる条件なのだ。 『次期当主よ。…
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SS・秋の風物詩
帰宅すると、部屋の前にどでかい段ボール箱が置かれていた。「今朝、ご実家から届きましたよ」 通りがかった文さんの言葉に、もうそんな時期かと頭を抱える。 この時期、上京組による『実家から送られてきた果物の押し付け合い』は、もはや風物詩だ。 退…
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SS・初霜の朝
明け方、ぐんと冷え込んだと思ったら、今日は各地で初霜が観測されたらしい。 食堂で朝の天気予報を何とはなしに見ていたら、朝の掃除を終えた文ふみさんがニコニコ顔で現れた。「今日はキンと冷えて、空気が澄んでいますね。お庭にも霜が降りていますよ」…
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SS・夏の夢
その人は、暗闇の中にポツンと座っていた。 昼間なのにじっとりと暗い書斎の真ん中、叱られた子供のように膝を抱えて。 時折震える肩が、痛みに耐えているように見えたから、思わず声を掛けた。「おじさん、どこかいたいの?」 弾かれたように顔を上げて…
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SS・焼き芋
落葉の季節は、文さんにとって一世一代の大勝負の時期だ。 庭中の落葉を掃き清めることこそ文さんの使命で、秋から冬にかけては朝から晩まで庭を掃く彼女の姿を見ることが出来る。 松来家の庭は広く、落葉樹も多い。それを毎日せっせと掃き清めるのだから…
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SS・空よりも青く
梅雨入りが宣言されたと同時に、しつこく降り続いていた雨はぱたりと止み、初夏を思わせる気候がかれこれ一週間も続いている。「今年は空梅雨かねえ」「水不足になると困りますわね」 心配そうに呟く文さんの視線の先には、こんもりと生い茂る紫陽花。松和…
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SS・甘菓子
「まあ、人形焼ですわね」 差し出した紙袋を見て懐かしそうに呟くのは、『松和荘のマドンナ』こと文ふみさん。百年の長きに渡り松和荘を見守ってきた――いわゆる『地縛霊』だ。「以前、旦那様から頂いたことがありますの」 ――目の前で焼いてくれるんだ、…
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SS・手土産
浅草を訪れたのは、一体何ヶ月ぶりだろうか。「へえ、これが仲見世ですか。大層な賑わいですね」 つい先日『松和荘』にやってきたばかりの青年は、あまりの混雑ぶりに目を丸くしている。「折角だからお参りをしていこう。そのあとで土産を選ぶのを手伝って…
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SS・里桜
松来家の庭には様々な樹木が植えられているが、その中に桜の木はない。 近所に見事な桜並木があるのだから、わざわざ庭に植える必要はないだろう、というのが家主の考えであり、故に桜の季節になると、下宿人達は一升瓶を抱えて近くの土手まで繰り出してゆ…
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SS・雛人形
もう桃の節句に浮かれるような年齢ではないというのに、今年も文さんは嬉々として雛人形の飾りつけに余念がない。 立派な七段飾りは、初孫に浮かれた祖父母がわざわざ遠方の人形問屋まで足を運んで購入したものらしい。「出すだけでも大変だから、もういい…
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SS・春闘
『我々はー! 労働環境の改善をー要求するー!』 音の割れた拡声器から飛び出すのは、実に使い古された文句。厨房前に陣取って演説中の彼女は『おっかさん』こと一〇五号室の岡さん。長年に渡り『松和荘』の胃袋を支えてきた凄腕の料理人だ。「朝から何よ?…
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SS・巡る季節
永遠に続くかと思えた猛暑が、波が引くように鎮まっていき。気付けば朝晩に一枚上着を羽織るようになって、玄関の靴箱からはサンダルが消えた。 流石にまだコートを出すには早すぎて、長袖のパーカーを着こんで外に出れば、庭木を見上げる文さんと鉢合わせ…
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