現代もの

現代日本を舞台にした小説を集めました!

優しい狐

 御用聞きから世間話に横滑りし、お稲荷さんの狐を壊して回った不届き者が捕まった、という話になったところで、小さき巫女はくく、と目を細めた。「あの辺りの狐どもは優しいのう。妾わらわなら即座に祟ってやるものを」「物騒なこと言わんでください。てか…

SS・影踏み鬼

 休日の庭に、子供達の笑い声が響く。 遠方から訪ねてきた従兄弟達と、追いかけっこをしたり隠れん坊をしたり。普段は大人しい松来家の子供達も、こういう時ばかりは年相応にはしゃいでみせる。「旦那様」 一緒に遊んでいたお手伝いの文ふみが、困り顔で戻…

SS・白昼夢

 はらはらと舞い降りる薄紅色の花びらに、在りし日の思い出が重なる。 土手の桜並木が綺麗だからと、買い物帰りに寄り道をして。 春の嵐に髪を乱されながら、舞い踊る桜吹雪にはしゃぐ彼女。 川面を流れる花筏を見つめる横顔が随分と大人びていることに、…

SS・外套

 松来家の庭には立派な倉がある。 現在も正しく倉として使われているそこには、骨董品から季節用品までありとあらゆるものが収蔵されており、天気の良い日には虫干しなども行われている。「まあ、懐かしいものが出てきましたわ」 そう言って文ふみさんが引…

SS・夕涼み

 中庭に縁台を並べ、蚊取り線香を焚く。 大量に茹でた枝豆とトウモロコシは笊ざるのまま縁側に並べ、氷水を張った盥たらいにはビールとジュースをセットした。 台所の冷蔵庫では、大玉の西瓜が出番を待ち侘びている。 ようやく涼しくなってきた風が軒先の…

SS・書庫の主

 松来家のお屋敷には、当主以外立入禁止の書庫がある。 当主しか鍵を持っていない――ということになっているが、実のところ鍵などかかっていない。 この部屋に入れること・・・・・・・・・・こそが、松来家当主に求められる条件なのだ。 『次期当主よ。…

SS・秋の風物詩

 帰宅すると、部屋の前にどでかい段ボール箱が置かれていた。「今朝、ご実家から届きましたよ」 通りがかった文さんの言葉に、もうそんな時期かと頭を抱える。 この時期、上京組による『実家から送られてきた果物の押し付け合い』は、もはや風物詩だ。 退…

SS・初霜の朝

 明け方、ぐんと冷え込んだと思ったら、今日は各地で初霜が観測されたらしい。 食堂で朝の天気予報を何とはなしに見ていたら、朝の掃除を終えた文ふみさんがニコニコ顔で現れた。「今日はキンと冷えて、空気が澄んでいますね。お庭にも霜が降りていますよ」…

SS・夏の夢

 その人は、暗闇の中にポツンと座っていた。 昼間なのにじっとりと暗い書斎の真ん中、叱られた子供のように膝を抱えて。 時折震える肩が、痛みに耐えているように見えたから、思わず声を掛けた。「おじさん、どこかいたいの?」 弾かれたように顔を上げて…

SS・焼き芋

 落葉の季節は、文さんにとって一世一代の大勝負の時期だ。 庭中の落葉を掃き清めることこそ文さんの使命で、秋から冬にかけては朝から晩まで庭を掃く彼女の姿を見ることが出来る。 松来家の庭は広く、落葉樹も多い。それを毎日せっせと掃き清めるのだから…

SS・空よりも青く

 梅雨入りが宣言されたと同時に、しつこく降り続いていた雨はぱたりと止み、初夏を思わせる気候がかれこれ一週間も続いている。「今年は空梅雨かねえ」「水不足になると困りますわね」 心配そうに呟く文さんの視線の先には、こんもりと生い茂る紫陽花。松和…

SS・甘菓子

「まあ、人形焼ですわね」 差し出した紙袋を見て懐かしそうに呟くのは、『松和荘のマドンナ』こと文ふみさん。百年の長きに渡り松和荘を見守ってきた――いわゆる『地縛霊』だ。「以前、旦那様から頂いたことがありますの」 ――目の前で焼いてくれるんだ、…