春なので、奮発して本革の旅行鞄を新調した。
熟練の職人さんによる、世界に一つだけの逸品だ。
蓋を開ければ広がる、小さな世界。
布張りの青空には白い雲が浮かび、ビーズ刺繍の草原を風が渡る。
流れる小川は煌めいて、岸辺には色とりどりの花々が咲き乱れ。
こんもりとした大樹の枝には、手作りのブランコが揺れる。
湖畔に建つ煉瓦造りの小屋からは、パンの焼ける良い匂いがした。
旅行鞄を握りしめ、今日も私は旅をする。
現実から空想へ、空想から現実へ。めまぐるしく変わる世界、その荒波を掻き分けて。
そうして渡り歩くのに疲れたら、少しだけ立ち止まって鞄を開くのだ。
私だけの小さな世界は、いつだってここにある。
いつまでも、ここにある。
「Twitter300字ss」 第六十三回「鞄」
解説
ふと、「鞄の中に小さな世界」というイメージが湧き上がり、こんなお話に。
タイトルは「箱庭」と迷いましたが、作中にある「小さな世界」を選びました。
革の旅行鞄は憧れです……! 以前、鞄というよりはインテリア小物として売られていた小さな旅行鞄をゲットしたのですが、ベースが木なので物凄く重い&ごつくて、実用には耐えませんでしたね……orz
サイト初出:2020.04.04