伸縮小説・「予言の姫」 - 3/5

800文字の未来

『黄金の輝きを宿して生まれし末の姫は、やがて王国を破滅の先に導くであろう』
 いにしえより伝わる予言は王を苦しめたが、彼には破滅の予言を笑い飛ばすほどの度量もなく、はたまた頑迷な家臣達を納得させられるだけの言葉も持たなかった。
 王命に従い、幼い姫が幽閉されたのは離宮の書庫。
 ただ一人、数多の書物に囲まれて育った姫は、今日も窓辺で吐息を漏らす。
「ああ、つまらない」
 実のところ、幽閉生活自体に不満はない。外出の自由はないが衣食住は保証されているし、教育係には恵まれずとも、すべては書物が教えてくれた。
 この世の成り立ちや沢山の動植物。異国の言葉や風習。喜びや悲しみ、怒りや憎しみといった感情さえも、古今東西の物語から学び取った。
 頁をめくるたび、新たな世界が拓かれる。その瞬間がたまらなくて、眠る間も惜しんで読書に励んだ。
 けれど蔵書には限りがある。まして、誰も近寄らぬ書庫に新たな本が補充されるわけもない。
 ここには世界のすべてが詰まっているというのに、それらを丸呑みにしてなお、「つまらない」と姫は嘆く。
「読んだことのないお話が読みたい!」
 地団駄を踏んだところで、空から本が降ってくるわけもなく、幽閉が解けるわけでもない。
 そうして姫は今日も一人、暇を持て余す。

 幽閉の身となって幾年月。
 途切れがちだった食事が、とうとう届かなくなった。
 空腹に耐えかねて、生まれて初めて扉に触れ――目の当たりにしたのは、分厚い雲に覆われた空と、荒涼とした大地。
 遺された日誌が綴るのは、度重なる異常気象と蔓延する疫病。混乱に乗じた内乱と、すべての終わり。
 王家は滅び、王国は滅亡し――取り残された姫の元に、取り残された人々が集う。
 畑は焼かれ、家は壊された。もうおしまいだ、と嘆く人々の手を取り、姫は微笑む。
「未来は、まだ始まってもいない。これは――ここからは、私達の物語だ」
 故に、姫は自らペンを取る。
 誰も知らない物語を、己が手で紡ぐために。