故郷の村を飛び出したのは、十五歳の誕生日を控えた春だった。
村の外は危険がいっぱいだとさんざん脅かされていたけれど、そんなものは怖くなかった。
必死に貯めた小遣いと好奇心だけをポケットに詰め込んで、広い世界に飛び出した。
あちこちの街を巡り、沢山の経験を積んだ。
怖い思いもしたし、危険な目にも遭った。それと同じだけ、もしくはそれ以上に、楽しいことや嬉しいことがあったから、旅を続けることが出来た。
過去を振り返る暇も、未来を夢見る余裕もなかった。ただひたすらに今を生き続けたら、いつの間にか長い時が経っていた。
ぐるりと世界を一周して、最後に辿り着いたのは、何十年も前に滅びた故郷の村。
遙かなる故郷は、思い出の彼方。
本当に遙かな――手の届かないところへいってしまった。
「Novelber 2020」 22 遙かな
解説
twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「遙かな」。
お題を見た時に思い浮かんだのが、FF5の主人公・バッツの故郷で流れる曲「はるかなる故郷」(My Home, Sweet Home)。どこか物悲しい曲で、アレンジバージョンでつけられているのも望郷の歌詞なのです。
この曲を聴くたびに思い出すのが、「ふるさとは遠きにありて思ふもの」という室生犀星の詩の一節。帰りたくても帰れない故郷。だからこそ一層懐かしい。そんなイメージ。
私には故郷と呼べる土地がなくて、だからこそ余計に憧れるのかも知れない。
初出:Novelber 2020/2021.04.10
サイト初出:2021.04.26