クリムゾンゲート - 4/5

「あった……」
 押入れの奥深く、みかん箱に押し込まれたそのパッケージの中で、ヤツははじけるような笑顔を覗かせていた。
 記憶の彼方に置き去りにされていた、一本のソフト。
 パッケージを開ければ、真っ赤なロムカセットが顔を出す。
「クリムゾンゲート」。世の中がFFだドラクエだと騒いでいる時に、俺がのめり込んでいたRPG。
 冒険者達は不思議なゲートを越えて、あちこちの世界へと旅をする。散り散りになった秘宝を集め、失われた神話を繋いで、伝説の都市へと至るために――。
 そう。まだ放課後がとてつもなく長く感じたあの頃。たくさんの世界を、仲間達と共に旅した。おっちょこちょいな魔法使いミリアム、偏屈者だが腕の立つモンクのヒラギ。そして――。
「カイ――そうだったな」
 無口な主人公――勇者を代弁するかのように、笑い、怒り、涙した戦士、カイ。
 なぜ、今まで忘れていたのか。あれほどに熱中し、やり込んだゲームだったのに――。
 いや、違う。
 俺は投げ出したんだ。最後のダンジョンの一歩手前で。
 レベルが足りず、情報が足りず、時間が足りず――。
 周囲が続々とクリアしていく中で一人置いていかれ、面倒になって投げ出した。
 続々と発売される新タイトルに夢中になり、いつしかゲーム熱自体が醒めて、ハードごと押入れの奥にしまい込んだ。
「まだ……動くか?」
 僅かな期待を胸に、懐かしの8ビットゲームマシンをテレビに繋ぐ。ロムカセットを一吹きして本体に差し込み、電源を入れて――。
 画面は、真っ暗なまま。
 本体の故障か、それともカセットの電池が尽きたか。
「何が、またな、だ」
 もう、二度と会えない。二度と、冒険に出ることは出来ない。
 あの頃の俺に戻ることが出来ないように。
 あの頃のお前に、お前達には、もう会えないじゃないか。

 段ボール箱を元通りにしまい込み、子供のように不貞寝して。
 翌朝、はれぼったい目で起き出し、半ば無意識につけたテレビの中で、ヤツは満面の笑みを浮かべていた。
『不朽の名作RPG、満を持しての復活――。クリムゾンゲートを越えて、新たな冒険の幕が開く』
 いまいち捻りのない、懐かしいキャッチコピー。
 かつてはドット絵だったキャラクターも、今では立体的に滑らかな動きを見せる。
 パッケージイラストも一新されて、随分と男前になったじゃないか。
『行こうぜユート! 冒険の始まりだ』
 そんな声が聞こえた気がして、思わず苦笑する。
「ああ、そうだな」
 行こう。あの時越えられなかったゲートを越えて。今度こそ最後まで。用意された結末の、その彼方まで。

 クリムゾンゲートを越えて。

終わり