HIKARI - 1/4

 町の片隅にぽつんと佇む博物館。
 その出口近くのガラスケースには、一台のアンドロイドが展示されている。
 天鵞絨の椅子に腰かけ、眠るように瞳を閉じたまま、百年以上の長い月日をここで過ごしてきた、機械仕掛けの少年。
 他の展示物には詳細な説明のついた案内板がついているにも関わらず、このガラスケースの案内板には展示物の名称以外、何の説明書きもない。
 そんな、あまりにも簡素な案内板を、博物館を訪れる人々のほとんどは見落してしまい、そもそも展示物だと気づかずに通り過ぎていく人も多い。
 しかし、本日最後の客であるところのアンジェリカは、珍しくもガラスケースの前で足を止めると、独り言にしては随分と大きな声で呟いた。
「なんでこんな人形が飾られてるワケ?」
 他にほとんど客がいなかったせいもあり、その声は思いのほか大きく響き渡ってしまい、慌てて口を押える。
「いっけね」
 しかし、ここはすでに出口近くのゾーンで、口煩い学芸員もいない。咎められなかったことにホッとして、改めてガラスケースの案内板に目を落とし、そしてぎょっと目を見開く。
「ナニこれ、説明なし?」
 黒字に白い文字で展示名称だけが記されている案内板には、ただ一言――。
「『光』……? なにが?」
『ナマエ』
「へえ、名前。……って、今のダレ!? おばけ!? ちょっとやめてよ!! アタシそういうの弱いんだから!!」
 思わず大声でわめき散らしながら周囲を見回すが、展示室にいるのはアンジェリカ一人だけ。そもそも入館当初から、他の客とすれ違った記憶もないし、彼女とて急な雨に降られたりしなければ、こんな寂れた博物館に入ったりなどしなかっただろう。
『オバケジャナイヨ』
 再び響く声に飛び上がりそうになりつつ、とある可能性に思い当たって、おずおずと視線を上げる。
「アンタ……まだ動いてるの!?」
 ガラスケースの中、天鵞絨の椅子に座って眠っている――ように見えたアンドロイドの少年は、今もその瞳を閉じたまま。背もたれにもたれかかるようにしてくつろいでいるような体勢も、1mmたりとも変化していない。しかし、そのふっくらとした唇が僅かに動いて、小さく微笑むような形を作る。
『メインカメラハ コワレタシ テアシノ クドウケイハ モウウゴカナイケド ソレイガイハ マダ カドウチュウ。セツメイヲ キク?』
「説明? あ……もしかして、あんたのとこだけ案内板に説明文がないのって……」
『ジブンデ セツメイデキルカラ。セツメイヲ キク?』
 平坦な発音なのに、どこか切望するような響きを感じ取って、アンジェリカは思わずうん、と頷いた。
「あ、見えてないんだっけ。うん、聞かせてよ。雨宿りの時間潰しくらいにはなるっしょ」
 改めて声に出せば、少年は笑みを深めて、イイヨ、と答える。
『チョットナガイケド サイゴマデキイテネ』