不思議な絵画を手に入れた。
題名は『淑女の微笑み』。しかし描かれた淑女は紅唇を固く閉じ、悲しげにこちらを見つめて来る。
これのどこが『微笑み』なのだろうか――という疑問は、数日後に氷解した。
「すみません、手違いで別の画廊に届けてしまいまして」
配送屋が運んできたのは、『淑女の微笑み』と同時に買い付けた、同じ作家の絵画。
『日だまりに猫』と名付けられた絵画を向かい側に飾った途端、頬が緩み、目元が和らぐ。
「なるほど。貴女の猫だったんだね」
題名に相応しく、蕩けるような微笑みを浮かべる淑女と、幸せそうに丸くなる猫。
分売不可のためなかなか買い手が決まらず、『淑女』は日がな一日、まどろむ猫を見つめて暮らしている。
「Novelber 2020」 18 微笑み
解説
twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「微笑み」。
どこにも明記はしていませんでしたが、こちらは世界樹の街・七番街にある画廊のお話。
この絵画は二点セット、かつ「必ず向かい合わせに飾ること」という条件付きで販売されていますが、なかなか買い手がつかないようです……。
初出:Novelber 2020/2021.03.21
サイト初出:2021.04.20