はらはらと舞う薄紅色の花びら。遥か頭上から降り注ぐそれは、地上に降り積もる頃には色と重みを失って、やがて風に攫われて消えていく。
予告なく咲き、風にとける花。百年に一度、数時間しか咲かないという奇跡の花は、散り際まで神秘的だ。
「なんだかもったいないよなあ」
二度とは見られぬ光景を見上げながら誰にともなく呟けば、ぐうたらエルフはそう? と笑みを零した。
「僕は好きだよ。この潔さ」
いつもと変わらぬ笑顔が、なぜか胸に沁みる。
彼もいつか、この花びらのように――誰にも気づかれず、まるで最初からいなかったかのように――消えてしまいそうで。
「あんたは消えるなよ」
思わず口をついた言葉に、男はただ静かに笑うだけだった。