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いらっしゃイ。おヤ、また来たネ、お嬢チャン。 この店は珍しいものがいっぱいだかラ飽きないっテ? そりゃよかっタ。 でもお母さんに怒られないカイ? あの店には行っちゃイケませんテ言われたんでショ? 言わなきゃバレないって? なるほど、確かにその通りだネ。 他のお客さんもいないことだシ、ゆっくり見ていくといいヨ。 でも気をつけてネ。あんまり色々触らないように。何が出てくるか分からないヨ? 何が出てくるっテ? そうだナァ、例えばその変わった形のランプ、それには精霊が封じ込められてるのサ。三回擦ると現れて、三つの願いを叶えてくれるヨ。 そっちの指輪は持ち主に大いなる力を与えル代わりに、その魂を削り取っていク呪いの指輪ネ。草原人の少年かラ譲り受けたんだケド、未だに買い手がつかないんだヨ。 そこの剣は、かの勇者ファーンが振るったとされル聖剣ケルナンアークの模造品ダヨ。刃は入ってないかラ実際には使えないケド、飾りにちょうどいいでショ。 怪しげなものがいっぱいだっテ? そりゃア、それがウチの売りだからネエ。 ――え? あの窓際のきらきら光るヤツは何かって? この硝子細工が気になるカイ? これはネ、王様とお妃様。よく出来てるでショ。 これも魔法の道具かって? いや、そうじゃないんダ。 実はネ―― むかーしむかし、とある国に、困った王様とお妃様がおりました。 王様はお金がだーいすき。あれこれ理由をつけては税金を増やし、人々から金を巻き上げます。 お妃様は贅沢がだーいすき。王様が集めたお金で、服に宝石、美味しいものや美しいものを手当たり次第に買い集め、お部屋はまるで宝物庫のよう。 王様とお妃様のお陰で、人々は大層苦しんでいました。 そしてある日のこと。たまりかねた人々は、一人の魔法使いのもとに向かったのです。 彼は人々の訴えを聞くと、配下の魔族を城に遣わしました。 突如やってきた魔族に城の兵士は大慌て。どうにかして追い返そうとしますが、その魔族には弓矢も剣も、魔法さえも通用しません。 そうして悠然と玉座の間に現れた魔族に、恐れ慄いた王様とお妃様は口々に言いました。 「何が望みだ。金か、金ならいくらでも持っていくといい」 「それとも宝石? 欲しいならあげましょう。なんでも望みのものを言ってごらんなさい」 しかし魔族は首を振ると、こう言い放ったのです。 「欲に駆られて自らの責務を見失った者達よ。己が力量に相応しい姿となれ」 魔族がひらり、と手を振ると、王様とお妃様の姿はしゅるしゅると縮んでいき、そして小さな硝子細工になってしまいました。 玉座の間に転がった硝子細工をそっと拾い上げ、そして魔族は言いました。 「その脆く儚き姿で百年の月日を過ごすことが出来たのなら、魔法は解け、再び人間の姿に戻るだろう」 ……あ、その目は信じてないネ? 最近の子供は夢がないなア。 いつもデマカセばっかり言ってるからだ? あいタタタ、耳が痛いネェ。 まア、その話はともかくとしテ。 この硝子細工、とても綺麗でショウ? 細工も細かいし、ほら、この瞳の輝きと言ったラ、まるデ生きているようだヨ。このお妃様はネ、絶世の美女として名を馳せた人なんダ。この王様も、ずんぐりむっくりしててカワイイよネェ。 でも悪い人なんでしょう、っテ? あレ、信じてないんじゃなかったのカイ。 揚げ足取るな? ごめんゴメン。 うん、そうだネ。王様とお妃様のお陰で、国は荒廃の一途を辿っていタ。実際、二人がいなくなってカラ、その国はとても暮らしやすい国になったそうダヨ。 実はこれ、全然売れなくて困ってるんダ。どうせ悪い人達だシ、今ここで壊しちゃおっカ? エ? やめてっテ? たとえ作り話でも可哀想、かァ―― なラ、このまま飾っておくことにするヨ。 おっト、そろそろ日が暮れるヨ。お母さんに怒られる前に、帰った方がイイ。 またオイデ、優しいお嬢チャン。 ……命拾いしたネ、王様にお妃様。 約束の期日まデ、あと十年、だっタっけ? ――幸運ヲ。 終☆ |