[BACK] [HOME] [36 etude・TOP]

硝子細工

〜脆ク儚キモノ〜
36 etude」 25:「硝子細工」


 いらっしゃイ。おヤ、また来たネ、お嬢チャン。
 この店は珍しいものがいっぱいだかラ飽きないっテ? そりゃよかっタ。
 でもお母さんに怒られないカイ? あの店には行っちゃイケませんテ言われたんでショ?
 言わなきゃバレないって? なるほど、確かにその通りだネ。
 他のお客さんもいないことだシ、ゆっくり見ていくといいヨ。
 でも気をつけてネ。あんまり色々触らないように。何が出てくるか分からないヨ?
 何が出てくるっテ?
 そうだナァ、例えばその変わった形のランプ、それには精霊が封じ込められてるのサ。三回擦ると現れて、三つの願いを叶えてくれるヨ。
 そっちの指輪は持ち主に大いなる力を与えル代わりに、その魂を削り取っていク呪いの指輪ネ。草原人の少年かラ譲り受けたんだケド、未だに買い手がつかないんだヨ。
 そこの剣は、かの勇者ファーンが振るったとされル聖剣ケルナンアークの模造品ダヨ。刃は入ってないかラ実際には使えないケド、飾りにちょうどいいでショ。
 怪しげなものがいっぱいだっテ? そりゃア、それがウチの売りだからネエ。
 ――え? あの窓際のきらきら光るヤツは何かって?
 この硝子細工が気になるカイ?

 これはネ、王様とお妃様。よく出来てるでショ。
 これも魔法の道具かって? いや、そうじゃないんダ。
 実はネ――


 むかーしむかし、とある国に、困った王様とお妃様がおりました。
 王様はお金がだーいすき。あれこれ理由をつけては税金を増やし、人々から金を巻き上げます。
 お妃様は贅沢がだーいすき。王様が集めたお金で、服に宝石、美味しいものや美しいものを手当たり次第に買い集め、お部屋はまるで宝物庫のよう。
 王様とお妃様のお陰で、人々は大層苦しんでいました。
 そしてある日のこと。たまりかねた人々は、一人の魔法使いのもとに向かったのです。
 彼は人々の訴えを聞くと、配下の魔族を城に遣わしました。
 突如やってきた魔族に城の兵士は大慌て。どうにかして追い返そうとしますが、その魔族には弓矢も剣も、魔法さえも通用しません。
 そうして悠然と玉座の間に現れた魔族に、恐れ慄いた王様とお妃様は口々に言いました。
「何が望みだ。金か、金ならいくらでも持っていくといい」
「それとも宝石? 欲しいならあげましょう。なんでも望みのものを言ってごらんなさい」
 しかし魔族は首を振ると、こう言い放ったのです。
「欲に駆られて自らの責務を見失った者達よ。己が力量に相応しい姿となれ」
 魔族がひらり、と手を振ると、王様とお妃様の姿はしゅるしゅると縮んでいき、そして小さな硝子細工になってしまいました。
 玉座の間に転がった硝子細工をそっと拾い上げ、そして魔族は言いました。
「その脆く儚き姿で百年の月日を過ごすことが出来たのなら、魔法は解け、再び人間の姿に戻るだろう」


 ……あ、その目は信じてないネ? 最近の子供は夢がないなア。
 いつもデマカセばっかり言ってるからだ? あいタタタ、耳が痛いネェ。
 まア、その話はともかくとしテ。
 この硝子細工、とても綺麗でショウ? 細工も細かいし、ほら、この瞳の輝きと言ったラ、まるデ生きているようだヨ。このお妃様はネ、絶世の美女として名を馳せた人なんダ。この王様も、ずんぐりむっくりしててカワイイよネェ。
 でも悪い人なんでしょう、っテ? あレ、信じてないんじゃなかったのカイ。
 揚げ足取るな? ごめんゴメン。
 うん、そうだネ。王様とお妃様のお陰で、国は荒廃の一途を辿っていタ。実際、二人がいなくなってカラ、その国はとても暮らしやすい国になったそうダヨ。

 実はこれ、全然売れなくて困ってるんダ。どうせ悪い人達だシ、今ここで壊しちゃおっカ?

 エ? やめてっテ?
 たとえ作り話でも可哀想、かァ――

 なラ、このまま飾っておくことにするヨ。
 おっト、そろそろ日が暮れるヨ。お母さんに怒られる前に、帰った方がイイ。
 またオイデ、優しいお嬢チャン。


 ……命拾いしたネ、王様にお妃様。
 約束の期日まデ、あと十年、だっタっけ?
 ――幸運ヲ。


[BACK] [HOME] [36 etude・TOP]

Copyright(C) 2005 seeds. All Rights Reserved.