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[3]

「では、忘れないうちに契約をしましょうか」
 小屋に戻り、一息ついたところで、リファは思い出したようにそう告げた。
「手を貸してください」
 そう言って椅子から立ち上がったリファは、半ば強引にラウルの左手を取り、自らの左手を合わせる。
 途端に、その手のひらがかぁっ、と熱くなった。その重なった手の間から、閃光が迸る。
『さあ、契約をいたしましょう』
 それまでとは違う、力強い言葉の響き。不思議に反響するその声が、契約の言葉を紡ぐ。
『私、リファール=マールクスの名において、ここに約します。あなたの望むままに、我が力を行使しましょう』
 それは随分と簡素な契約に思えた。すぐに手を離したリファは、その左手を見るように言って来る。
 光の残滓が残るその左手をまじまじと見ると、そこには輝く文字が刻まれていた。ラウルには読めないそれは、あっという間に光を失って消えていく。
「これで契約は結ばれました」
 厳かに告げるリファ。その瞳は、どこまでも穏やかにラウルを見つめてている。
「あの悲しき少女を、どうか……お願いします……」
「……ああ。分かってる」
 重く、頷きを返すラウル。それをしっかりと見届けて、リファはすっと、傍らに立てかけてあった杖を手に取った。
「それでは、私はこれで……」
 踵を返そうとする魔術士の腕を、ラウルはそっと掴んでひき止めた。
「これから帰るんじゃ大変だろ?せめて少し、休んでけよ」
「ご心配なく、転移魔法を使えば、北の塔まではあっという間ですから」
「そんな顔色でよく言うぜ。見てみろ」
「え?……」
 ほい、と差し出された手鏡を覗き込んで、リファは苦笑を漏らす。ラウルの指摘通り、少し青ざめた顔がそこに映し出されていた。
「ああ……そうですね」
 実を言えば、北の塔からここまで一度の休憩も中継もなく飛んでくることは、通常の魔術士にはほぼ不可能だ。それを可能にしているのはリファの底なしに近い魔力と長年の修練のおかげだが、それでも身体への負担は避けられない。更に、それだけでなくルシャスの村までの行き帰りを、同行者一名付きでこなしているのだ。普通ならば魔力を使い果たして昏倒していてもおかしくない。
「魔術のことはよく知らないが、転移魔法ってのは相当疲れるんじゃないか?無理させて、すまなかったな」
 とはいえ、その無理をしてくれたおかげで、皆既日食の日取りを知ることが出来たのだ。改めて、この金の魔術士と、そして禁を犯してまで協力してくれた北の塔の姉妹に心の中で感謝の言葉を呟くラウル。
「いえ、どうか気にしないで下さい。それに、これくらいなら少し休めば大丈夫ですから」
 そう言うリファだったが、ラウルは首を横に振る。
「泊まってけばいい。塔に戻るのは明日の朝でも構わないだろ?」
 ラウルの言葉に、リファは少しだけ考えて、そうですねと頷いた。
 少し休めば回復するのは事実なのだが、このまま北の塔に戻っても、やることと言えばあの姉妹の愚痴を聞くことくらいしかない。別にそれを苦痛とは感じないが、今はこの、若きユーク神官に少々興味を覚えていた。
(もう少しだけ、この人と話をするのもいい……)
 「伝説の魔術士」であることをはっきり告げたも同然だというのに、突っ込んだことを聞こうともせず、嘘だと決め付けることもなく、ラウルはそれまでと態度を変えずにいる。そして、余りにも些細な助力しか求めてこない。やろうと思えば、影の神殿を一人で壊滅に追い込むことすらリファには可能だというのに、彼はそれを望まなかった。
 それはリファにとって予想外で、そして、とても心惹かれるものだったから。
「それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」
 リファの言葉に、それじゃ、とラウルは寝室へつながる扉を示す。
「使えよ。俺はこっちで寝るから」
 そう言って居間の長椅子にごろん、と横になろうとするラウルに、リファは慌てて首を横に振る。
「とんでもない。私こそ、そこで充分です。あなたは、まだ完全に身体が治っていないのでしょう?そんなところで寝たら……」
「ばぁか」
 呆れたような顔でリファを見るラウル。
「……これでも男の端くれだぞ。あんたを椅子で寝かしといて、一人ぬくぬくと寝台で眠れるかよ」
 おや、と笑ってみせるリファ。
「私は、女でも男でもない。性別を持たないものです」
「性別を、持たない?」
「具体的に言うなら、どちらの特徴も備えていないんですよ。ああ、言葉で説明するより、脱いでみせた方が早いですね」
「……いや、いい。寒いだろ」
 手を振ってその申し出を断り、改めて目の前に立つ魔術士を眺めてみる。
 背はラウルよりも些か低い。そしてその体つきはゆったりとした長衣の上から見ても分かるほどに華奢だ。小さな顔と細い手足が余計にそんな印象を強めている。例えて言うなら、まだ成熟していない少年のような体つき。しかし、艶やかな唇や細い指先、髪を払う仕草やそっと目を伏せた様子などは、そこらの女など太刀打ち出来ないほどの色気を醸し出している。かと思うと、手の造詣や肩の感じなどはどちらかと言えば骨ばっていて、男らしさがにじみ出ている。
 男でも女でもないというよりも、男と女、両方の魅力を備えた、それは完全なる美の造形物と言えた。黙っていれば、それは近寄りがたいほどに神々しい美貌なのだが、口元に浮かぶ微笑みと柔らかな光を湛えた青い瞳が、それを穏やかで優しい印象に変えている。
(勿体ねえよなぁ……女だってなら即、口説き落としてるのに)
 その美貌は勿論のことだが、聡明で明朗な話し振りや静かな笑顔、そして何より、そのどこまでも真っ直ぐな瞳は、まさにラウルの好むものだった。
「というわけですから、変な遠慮はしないで下さい」
 そう言って来るリファに、しかしラウルは首を横に振る。
「男だ女だってのを抜きにしても、今、休息が必要なのはどうみてもあんたの方だ。さっさと寝ろよ」
 ひらひらと手を振って寝室へと追いやろうとするが、リファは困った顔をしたままその場を動かないでいる。
「ラウルさん、お願いですから……」
 懇願するような瞳のリファに、ため息を一つ。
「……ったく……」
 仕方ないな、と長椅子から立ち上がり、つかつかとリファに歩み寄る。
 そして、前置きもなくその身体をひょいと抱き上げた。
「ち、ちょっと……!?」
 珍しく慌てた声を出すリファを無視して、ラウルはリファを抱きかかえたままスタスタと歩き出す。
「っと、軽いな、あんた」
 例え実情がどうであれ、世の中の女性に対して間違っても「重い」などと言ってはいけないのがこの世の定めというものだが、このリファはそう言った美辞麗句抜きに軽かった。まるで羽のように、重さを感じない。
「それは、どうも……」
 何と答えていいものか分からずに、そんなありきたりな言葉を返すリファ。そんなやりとりをしているうちに、ラウルは扉をくぐり、簡素な寝室へと足を踏み入れていた。
「ラウルさん……?」
 古びた寝台の側まで歩み寄り、寝台の上にぽん、と、まるで猫の子でも扱うようにリファの身体を放る。
 白い敷布の上にさぁっ、と金髪が流れ、投げ出された白い手足に、咄嗟のことにきゅっと目を瞑ったその仕草に、思わず小さく息を飲むラウル。
(女じゃないって分かってるのにこれだ。ったく、俺としたことが情けねえな)
 そんな心の呟きをぐっと心の奥に押し込んで、ラウルはわざとぶっきらぼうな口を聞いた。
「いいからそこで寝ろ」
「ラウルさん……でも」
「同じことを何度も言わせるなよ。じゃ」
 さっさと寝室を出て行こうとしたラウルだったが、ふと振り返り、悪戯めいた瞳をリファに向ける。
「それとも、一緒に寝るか?野郎と一緒はごめんだが、あんたならまあ構わないぜ」
 からかうつもりで言ったのに、それを聞いたリファは、寝台の上に身体を起こし、どこか艶めいた笑みを浮かべて答えた。
「喜んで」
 目を見張るラウルに、リファは続ける。
「ああ、あなたがお望みなら、今ここで変身術の見本をお見せしましょうか。どんな女性がお好みです?」
 探るようにリファの顔を見て、ふう、と息をつくラウル。
「……そいつは、お誘いと受け取っていいのか?」
「どういう風にとってもらっても構いませんよ」
 あっけらかんと言ってのけるリファ。まるで本心が読めないその青い双眸は、今はただ真っ直ぐにラウルを見つめている。
「随分と色っぽい話だな」
「おや、そういう話がお好きかと見受けましたが?」
「よく知ってるじゃないか」
 心の底を探りあうような言葉の応酬。こういうのは嫌いじゃない。言葉の駆け引きは、一夜限りの戯れをより刺激的に彩ってくれる。とことん騙し、騙されてやるのが粋なお付き合いというものだ。しかし。
「いたいけな若者をからかうのはやめてくれよな」
 この人物は、おいそれと手を出せるものじゃない。さすがのラウルとて、そのくらいは分かる。
「どこら辺がいたいけなのか分かりませんが、冗談が過ぎましたか。すいません」
 苦笑しつつ、そう言って来るリファ。
 やれやれ、と肩をすくめて、ラウルは大仰にため息をつき、静かに寝室の扉を閉めた。そのまま寝台へと歩み寄りながら、無造作に神官衣を脱ぎ始める。
「おやおや、大胆ですね」
 くすりと笑うリファに、おいおい、と呟く。
「男でも女でもないっていったのはあんただぞ。そんな奴の前で恥ずかしがってどうする」
 黒尽くめの服を脱ぎ捨てると、うっすらと傷の残る肌が顕わになる。先日の傷はガイリア分神殿の手当てのおかげで、もうなんともない。それでも多少は跡が残ってしまったが、それを気にするラウルでもなかった。
 髪を解こうとして、ふとリファがこちらを見ていることに気づく。
「なんだよ?」
「傷だらけ、ですね」
 なぜ、とも聞かず、ただそう言って来るリファに、苦笑を漏らす。
「まあな……気になるか」
「いいえ。こんなことを言っては気を悪くされるかもしれませんが、ちょっと羨ましいのだと思います」
「羨ましい?」
 眉をひそめるラウルに、リファは長衣の前をはだける。まるで光が溢れるかのように、眩いほど白い肌がそこから現れた。
 傷一つない滑らかな肌。女ではないと本人が言った通り、その胸にはわずかな起伏もなく、しかしどこか不思議な艶やかさが漂っている。
「私はね、今までに何度も死んでいるんですよ。死んでいる、という表現は間違っているかもしれませんが、通常なら即死するはずの傷を負っても、時間が経てば治ってしまう。この通り、傷一つ残らない。例えこの胸を貫かれようと、身体を真っ二つにされようと、すぐに元通りの姿で蘇ってしまう」
「リファ……」
 嫌なものですよ、と金髪の魔術士は自嘲めいた笑みを浮かべた。
「まるでこの身体は、時の流れを拒絶しているかのように、変わらない。歴史を刻むことすらこの身には許されない……」
 呟くリファの左胸に、ラウルはすっと指を突きつける。
「歴史なら、ここに刻まれてるだろ」
「ラウルさん……」
「たとえ姿は変わらなくたって、あんたの心は変わり続ける。長い時の中で、様々なことを経験して、たくさんの歴史を心に刻み込んできたはずだ」
 身体の傷など、いつか消える。受けた痛みも、感じた喜びも、つかの間のもの。
 それでも、それを感じた心に、すべては刻み込まれている。
「それに、こんな綺麗な身体に、傷なんて似合わねぇよ」
 それは違う、と言いかけるリファの唇に、そっと人差し指を当てる。
「言うなよ。あんたがどんな人生を送ってきたかなんて知らないが、少なくとも俺にはそう見える」
 それは、それまでのからかうような口調ではなかった。真摯な響きの言葉。そして、力強い瞳がリファの心を真っ直ぐに射る。
「あんたは、綺麗だ。汚れを知らない綺麗さじゃない、全てを知ってなお輝く夜空の星みたいに、綺麗だよ」
 すい、と流れる金の一房を掬い取り、そっと唇を寄せる。そのまま、リファが何も言わないのをいいことに髪を指で弄んでいると、ようやく金髪の魔術士は形のいい唇を動かした。
「……あなたときたら、本当に口がうまいですね」
「当たり前だろ? これでも都じゃ名うての女たらしで通ってたんだからな」
「それじゃ、今のは私を口説いてるんですか?」
「口説いて欲しそうな顔してたぜ」
 不意に、金と黒の煌きが宙を舞う。
「ラ、ウル、さん……?」
 リファの身体に覆いかぶさるように寝台へと押し倒して、ラウルは不敵な笑みを浮かべていた。
「折角の夜だ、楽しまなきゃ損ってもんだよな。それに……先に誘ったのは、あんただ」
 その華奢な手首を押さえこみ、そっと間近に迫った白皙の顔を覗き込む。
 海のような青い瞳は静かな光を湛えたままで、ラウルを見つめている。それはまるでこの状況を楽しんでいるかのようにも見えて。
「……抵抗、しないのか?」
「あなたは、嫌がる人間を無理矢理手篭めにするような人とは思えませんから」
 静かにそう言われて、バツの悪い顔をするラウル。しかしすぐに、にやりと笑って言ってみせる。
「買いかぶりすぎだ。俺はこれでも年頃の男で、しかもここ半年ばかりずっと一人身だったんだぞ?あんたみたいな美人を前に、これ以上自制心が働くとは思えないんだがな」
 言葉を裏付けるかのように、わざと掴んだ手首に力を込めてやったが、リファの瞳に怯えや動揺は浮かんでいない。
 むしろ、動揺しているのはラウルの方かもしれない。
 重ねた体から漂ってくる、ほのかに甘く心くすぐる肌の香りに、からかい半分だったはずの心がにわかに揺れている。
 つい、本気になりかけている自分の心を、必死に押しとどめる。いけない、危険だ。逸ってはまずい。
 心中穏やかでないラウルの耳朶を、まるで止めを刺すかのように甘い呟きが打つ。
「……お望みなら」
 それは、狂おしいほどに蠱惑的な囁き。
 しかし、ラウルは頷かなかった。
「そういう言い方は卑怯だ。あんたは、俺に何を望む?」
 押し黙るリファ。はじめてその瞳が揺れるのを見て取って、ラウルはそっと呟いた。
「……なんてな」
 ラウルはすっと、その身体を離した。唐突に重みが消えて、リファは目を瞬かせる。
「ラウルさん?」
「冗談だ。さっきのお返しさ」
 ひらひらと手を振り、さっさと寝間着に着替え出すラウルの背中に、リファはそっと呟く。 
「……それは残念」
 再び、本気とも冗談とも取れない言葉。それを聞き取ったラウルは、しかし何も言わずにただ、毛布をその華奢な身体の上に落としてやった。
「早く寝ろよ。明日は早いんだろ?」
「はい」
 毛布を引き上げるリファの隣に、静かに身体を滑り込ませる。
「……狭いんですけど」
「がまんしろよ」
 ごそごそと毛布や上掛けの具合を直して、ようやく静かになる寝台。月明かりだけが静かに照らす寝室に、心地よい静寂が訪れる。
 やがて規則正しい寝息が聞こえてきて、ラウルはそっと、横を伺った。
 顔のすぐ側に金の輝き。僅かに触れ合った肌から伝わってくるほのかな暖かさに、そっと口元を緩める。
 一人でいる時にはなかなか気づくことのない、人のぬくもり。それは心までも包み込んで、安らかな眠気を誘う。
 こんな風に誰かと寝台を共にしたのは、本当に久しぶりだ。しかも相手がこんな別嬪だというのに手を出さないというのは、ラウルをよく知る者が聞いたらさぞ仰天することだろう。しかし。
(……千年も思い続けてる相手がいるヤツに、手出しなんか出来ないだろうが)
 村で、千年前の出来事を切々と語ったリファ。その唇から少女の名が紡がれた時の顔は、愛しい娘に思いを寄せる青年の顔そのものだった。そのことにリファは気づいているのだろうか。
 千年の時を越えて、今もなお抱き続ける愛。時の流れに移ろうことなく、ただひたすらに貫かれた思い。
(いつか……会えるといいな)
 魂は死して輪廻の輪に昇り、やがては地上へと生まれ落ちる。時の果て、いつか邂逅することもあるだろう。そしてリファには、永遠にも似た時間が用意されている。だからこそ、この魔術士は世界中を巡り、出会いと別れを繰り返すのだろう。いつか会える、誰かのために。
「……おやすみ」
 傍らに眠る金の魔術士にそう呟いて、再び枕に頭を預ける。
 そうして、ほどなくラウルもまた、どこまでも深い眠りへと沈みこんでいった。


「おっはよーございまーす!!」
 元気一杯の声が小屋に響き渡る。いつも通り朝食を届けに来たマリオは、玄関を開けにやってきたラウルの顔を見て、眉をひそめる。
「どうしたんですかラウルさん。なんか、すっごく嬉しそう」
「嬉しそう?そうか?」
 自覚がないらしいラウルは自分の顔を引っ張ったりしている。と、その背後から声がかかった。
「ラウルさん、そろそろ……おや?」
「でぇっ?!」
 思わず手にしていた籠を放り出しそうになるマリオ。ラウルはと言えば、やってきたリファに
「なんだ、もう行くのか」
 などと呑気に声をかけている。その横で、思いっきり慌てふためいたマリオは、顔を真っ赤に染めながらラウルとリファを交互に見やり、そしてとうとう叫んだ。
「ラウルさん!! 小屋に女の人を連れ込むだなんて、何考えてるんですかっ!!」
「はぁ?」
「えぇ?」
 顔を見合わせた二人は、ああ、と同時に手を打つ。
「そうか、お前会ってないんだ」
「ええ、そうですね。あの時は急いでいましたし」
 先日リファがやって来た時、マリオはその場にいなかった。知らなければ、リファを女性と勘違いしてもおかしくない。
「マリオ、誤解だ」
「何が誤解なんですっ! だだ、大体、戦いを目前に控えているってのに、緊張感ってものはないんですか!! ふ、不潔です!!」
「だからだなぁ……」
 困った顔で頭を掻くラウルに、のほほんとマリオの慌てぶりを見つめているリファ。
 そんなリファに、マリオはぴしっと指を突きつける。
「あなたも! どこのどなたか知りませんが、このラウルさんはほんっとうに女の人に目がないドスケベなんですから、ほいほいと誘いに乗っちゃ駄目です! 絶対に後悔しますよ!」
「おいマリオ!お前、言っていいことと悪いことがあるだろっ!」
「嘘は言ってないでしょう?!」
「なにをぉ?!」
 こうして始まった二人の言い合いは、その後やってきたカイト達によって誤解が解ける半刻後まで、延々と続いていたという……。
 付き合いのいい魔術士は、騒動が収まるまでその場を動かず、むしろ目の前のやりとりを面白そうに見守っていたが、ようやく解けた誤解にマリオが顔を真っ赤にして謝ってくるのに笑顔で答え、そして塔へと戻るべく杖を構えた。
 呪文を唱えようとして、ふと思いついたようにラウルへ歩み寄り、こっそり囁く。
「そのうち、また口説いてください。面白かったですよ」
「……二度とごめんだ」

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