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第十章【10】

―――と。

 不意に、心のどこかで、殻の割れる乾いた音が聞こえた気がした。
 はっと立ち尽くす彼の脳裏に、閃光がよぎる。

―――らう!―――

 懐かしい声が力強く響き、そして光が彼を包んだ。
 それは、天をつく光の槍。影に覆われ真の闇に包まれた世界を切り裂き、強く激しい光を放つ。
 真っ直ぐに空を衝く光は、彼の全身から溢れ出た光。
 あまりの眩さに目を開けていられない。まるで光の洪水の中に叩き込まれたような、全身を光の粒子が駆け抜けていく感覚。
 風とも水とも違う清廉な流れが、足元から空へと駆け抜けていく。
 その流れの中へ、彼の体からするり、と抜けて飛翔していく、一際眩い光のうねり。
 眩しさに目を細めながら、空を見上げる。頭上に舞い踊る光は、まさに竜の形をしていた。
(竜――――光の竜だ!)
 黄金に輝く鱗。優美な線を描く体。力強く羽ばたく翼。 その竜は一度天高く舞い上がったかと思うと、急に向きを変えラウルを目指して降りてきた。
 近づくほどに眩しさを増すその体に、思わず目を瞑る。
 そして次の瞬間。

 何かが上から降ってきたような衝撃に、ラウルの体は見事なまでにすっ飛んで背中から地面に叩きつけられた。
「ぐぁっ……!」
『らう』
 背中の痛みに顔をしかめながら目を開けると、目の前に眩い笑顔があった。
 まるで内側から光り輝いているかのような、喜びを満面に湛えた笑顔。
『らう!』
 小さな腕が伸びてきて、ぎゅっとラウルの首にしがみつく。その腕の温かさに、そして押し付けられた頬の柔らかさに驚く。
「って、おいっ!」
 はっと我に返って、ラウルはその場に飛び起きた。当然、首にすがり付いていた「それ」も一緒に起き上がった形になって、きょとん、とラウルを見つめている。
『らう?』
「だーっ!なんでそのままなんだっ!」
 痛みも驚きも喜びも感動も、すべてすっ飛ばして、ラウルは頭を抱えた。
『??』
 そんなラウルを面白そうに見つめているのは、輝く髪の少女だった。
 人間で言うなら、五、六歳ほどになるだろうか。透けるような肌、緑の双眸。柔らかにうねる髪は、金というより白に近い。
 光の神ガイリアをそのまま縮めたような、あどけないながらも神々しい雰囲気を持つ少女。白い服に身を包み、小さくふっくらとした手でラウルの顔をぺちぺちと、それはもう面白そうに叩いている。
「やめろ……」
 怒鳴る気力もないラウルは、その手を力なく払う。と、少女はふと思い立ったようにラウルから離れ、その前で気をつけの姿勢をとった。
「あ?なんだ?」

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