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夜明け前
 時計職人の朝は早い。

 真っ暗な部屋を抜け出し、角灯の明かりを頼りに階段をのぼる。
 鳩小屋の前を忍び足で通り抜け、やっとのことで鐘楼へと辿り着けば、安らかな寝息が聞こえてきた。

「おーい、そろそろ起きてもらえませんかね」
「ふわああああ、もう朝ぁ?」

 鐘の中からにゅっと顔を出したところをすかさず引っ掴み、ずるずると引きずり出す。
「あんたが起きないと朝が来ないんだからさっさと出て来なさい」
「休みなく働いてるんだから、夜くらいしっかり寝かせてほしいなー」
 欠伸交じりの抗議を聞き流し、ほらほらと背中を叩いてやれば、地平線の向こうから朝日が昇ってきた。

 彼の務めは『時間』を起こすこと。
 こうして今日も、世界が動き出す。


 こちらは第7回 Text-Revolutions内有志企画「300字SSポストカードラリー」参加作品。
 六回目のお題は「時計」でした。
 ふと「時計職人の朝は早い。」というフレーズを思いつき、それが頭から離れなかったので、そのまま練り上げてみました。
 時計職人の責務としては重すぎる気もしますが(^_^;) そもそも「時間」がきちんと流れてくれないと時計の意味がないので、彼にはこれからも張り切って「時間」を起こし続けていただきたいところです。
 なお、こちらは表面のお話。裏面も合わせてお楽しみくださいm(__)m
2018.07.26



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