でこぼこした石畳の上を、軽やかな足音が駆け抜けていく。
「おつかい♪ おつかい♪」
「こら我が妹、走っちゃ駄目だ。さっき言われたばかりだろう?」
「だいじょーぶ、だもーんっ」
 飛び跳ねるような足取りに合わせて、柔らかな髪が揺れる。傾きかけた太陽の光を反射して光る髪は、まるで光を織り込んだよう。それを追いかける「自称:姉」は、三つ編みに結った紅茶色のお下げが歩くたびにぴょこぴょこと揺れて、まるで猫の尻尾のようだ。
「ほら、あんまりはしゃぐと怪我をするぞ。おっと、その角を右だ」
「つぎを、みぎーっ」
 あまり似ていない「姉妹」達が目指すのは、町の中心部にある『星の広場』。たくさんの店が立ち並んでいるあの辺りなら、ラウルから頼まれた品物をすべて揃えることが出来るだろう。
「我が妹、さっきの紙切れを見せてくれるか?」
「うんっ」
 はじめてのおつかいがよほど楽しいのか、いつも以上に浮かれた様子のルフィーリは、鼻歌交じりに肩掛け鞄から紙片を取り出した。字を習い始めたばかりのルフィーリにも読めるよう、大きく書かれた文字。書き記されているのは当座の食料と、ここまでの道中で消耗した、細々とした生活用品だ。
「えー、干し肉に堅パン、干し杏の砂糖がけ、ハッカ飴、乾燥芋、ラム酒一瓶……は用心棒のか」
「るふぃーり、はっかあめ、きらいー」
 べーっと舌を出すルフィーリに苦笑を浮かべ、続く文字を辿る。急いで書いたせいもあるが、元々ラウルの字はお世辞にも上手とは言えない。行を追うごとに乱れていく文字を必死に読み取って、残りの品々を読み上げる。
「それと薬草……カミツレとウイキョウとニガハッカ、かな? 水袋が一つと……最後のこれはなんだ? えーっと……てき、う、きが――?」
「なになにー?」
 紙片を覗き込もうとして、ふと背後からの『気配』に振り返る。
「ん? どうし――」
 ルフィーリが答える間もなく、一陣の風がローラの手の中から紙片を奪って、通りを駆け抜けていく。
「あっ――」
「うわぁん、まってぇ〜!」
 慌てて追いかける二人を嘲笑うかのように、紙片はくるくると宙を漂い、そして――。
「あっちへ行ったぞ!」
 紙片を奪い去った風が吸い込まれるようにして消えたのは、建物と建物の間を縫うようにして走る、狭い路地。表通りの明るさと対照的に、どこかじめついた雰囲気が漂ってくるその暗がりに、思わず二人の足が止まる。
「こっち、いった、よね?」
「ああ、そうだな……」
 建物の陰からそおっと奥を覗き込む。しかし、路地にまではみ出して置かれた木箱のせいで、奥まで見通すことが出来ない。
 どうしようかと顔を見合わせた二人の耳に、何やら耳障りな声が響いてきた。
「……なんだ?」
「このおく、きこえるよ」
 そっと息を潜め、耳を澄ます。
 風に乗って運ばれてくるのは――?


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